もうひとつ参考にしたいのが、記録としての役割を意識することだ。

「英語圏の人は、ビジネスメールは記録として残るものと考えている。トラブルが起こったときに証拠として使われることも念頭に置いて、記録として適切かどうかを確認する習慣がついているのです。日本では、まだそういう意識は薄いのではないでしょうか」(松崎久純さん)

記録としての役割を考えれば、書いたメールを読み返して内容を確認する作業には、細心の注意を払うべきであろう。

文字や文法の間違いはもちろん、文章のわかりやすさ、見た目のバランスなどを念入りにチェックする――日本語であれ、英語であれ、他人に見せる文章を書くときに必要なプロセスだが、どうも日本語のメールでは、この推敲という作業が軽視されているのではないかと、平野さんは指摘する。

「メールの場合、何度も読み返すものではないので、ひと目で内容が理解できる見やすさ、わかりやすさは必要だと思います。ていねいすぎる言い回しやムダな修飾語、誤解を招くような表現はどんどん削って、文章を短くする。分量としては、署名を含めてA4・1ページに収まるくらいでしょうか。3~5行で1行空けて、一文は40文字以内。20~30文字で改行を入れる、という構成です。相手が思わず返事をしたくなるような、後回しにしたらマズイなと思わせるようなメールが理想ですね」

推敲の際、ぜひとも気をつけたいのが、「事実と意見を混在させない」ことだと平野さんは付け加える。

たとえば、「今回の案件は、お客さまの予算が少ないため、厳しいと思います」という文章の場合、「お客さんの予算がないこと」が動かしがたい事実なのか、メールを書いた報告者個人の意見なのかがはっきりしない。報告者が勝手な思い込みで判断しているとも解釈できるため、トラブルの元になりかねない。これは、主語がなくても文章が成立する日本語独特の問題といえる。

事実は事実、意見は意見であることが、読み手にはっきり伝わるように書く――その点にも注意しながら、文章をブラッシュアップしてほしい。