若者を狙った「脱法マルチ」の被害が広がっている。毎日新聞の小鍜冶孝志記者は「私が取材した30代男性は、軽い気持ちで経営セミナーに参加したところから、脱法マルチにハマった。『おかしかったら、やめればいい』と思っていたそうだが、その目論見は外れてしまった」という――。(第1回)

※本稿は、小鍜冶孝志『ルポ 脱法マルチ』(ちくま新書)の一部を再編集したものです。

勉強机のラップトップの前で頭を抱える男
写真=iStock.com/Fajar Kholikul Amri
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消費者被害は成人年齢を境に急激に増えている

成人年齢を18歳に引き下げる改正民法が2022年4月1日から施行された。

若者の社会参加を促すのが狙いにあり、親の同意がなくてもローンなどの契約が結べるようになった。これまで、未成年者が親の同意を得ずに契約した場合には、原則契約を取り消すことができる「未成年者取消権」があった。ただ、民法の改正に伴い「18歳成人」については未成年者取消権が消滅してしまった。

未成年者取消権には、受け取った商品やサービスは返還する必要があるが、一部を消費していたとしても、残りを返還すれば問題なく、代金の支払義務がなくなる、未成年者が支払った代金は返還請求ができる――といった救済や、予防に絶大な効果があるとされてきた。

消費者被害は20歳を境に、急激に増えることがデータでも示されている。国民生活センターによると、全国の消費生活センターなどに寄せられた2020年度の20~24歳からの相談件数は平均9357件で、18、19歳(同5690件)の約1.6倍だった。

未成年者取消権には、悪質業者を寄せ付けない、いわば「防波堤」のような効果も存在していた。成人に仲間入りする18、19歳は、大学生や社会人として新生活がスタートするタイミングと重なる。未熟さにつけこまれ、消費者被害に遭うのではないか、との見方は引き下げを巡る議論の中でも繰り返し示されてきた。国会でも民法改正時の付帯決議で、若者の消費者被害を防止し、救済を図る法整備が求められてきた。

こうした指摘を受け、不当な勧誘や契約から消費者を守るルールを定めた消費者契約法が18年に改正された。

さまざま対策が講じられたが懸念はぬぐい切れない

社会経験が乏しい若者らの保護を念頭に、過度な不安をあおられたり、恋愛感情を悪用されたり、霊感商法で不安をあおられたりして結ばされた契約は取り消せるとした。加えて、政府は2022年の通常国会にも同法改正案を提出した。退去困難な場所に連れて行って勧誘するような場合などの取消権を追加した。

定額課金サービス「サブスクリプション」のトラブルが増えていることも踏まえ、解約に必要な情報提供を事業者に求める努力義務も盛り込まれた。ただ18、19歳の消費者トラブルが増加する懸念は拭いきれない。

組織ぐるみの「マインドコントロール」により、商品の購入や何らかの契約が生じている場合は、そもそも当事者が合理的な判断力を失っているケースが少なくない。他者の介入を証明するハードルが高く、自らの判断で購入・契約したとみなされてしまうこともある。本稿では、事業家集団の罠にはまった当事者のインタビューを紹介する。18、19歳に限らず、なぜ若者はマルチに魅入られるのか。事例から考えたい。