なぜ日本人は「批判」「批評」ではなく、「攻撃」「人格否定」になるのか。演出家・鴻上尚史さんと脳科学者・中野信子さんが、現代社会特有の“息苦しさ”から抜け出すためのトレーニング方法を語った新著『同調圧力のトリセツ』より特別公開する──。
※本稿は、鴻上尚史・中野信子『同調圧力のトリセツ』(小学館新書)の一部を再編集したものです。
共感能力がないほうが「論破」向き
【鴻上】今は共感能力があるほうが生きる上で大切だと思われていますが、一方で、共感能力がない人は、「論破王」と言われることもあります。確かに共感能力がない人のほうが一文で相手に対して、勝利宣言はできますよね。
【中野】海外の元首までなさった人に失礼かもしれませんけど、論破王的なトランプ元大統領も一定の支持がありましたね。
【鴻上】論破というのは、相手とのコミュニケーションを切断することだとようやく気づいてきた人が増えてきたからいいですが、一時期はそれが目標みたいになっていました。
「100対0」より「51対49」の勝利のほうがコスパがいい
【中野】論破することは、気持ちがいいことではあるんでしょうね。でも本当に有利な交渉とは100対0で勝つことではなくて、51対49で辛くも勝って相手に花を持たせつつ、恨みを残さないことです。
49も抱えるというのは、けっこう負担もあって大変ですが、一番仕事を進めていく上ではコスパがいいんです。そういうことをやっていくのが私たちの知性でもあります。
けれど、49も抱えることに疲れた人が、100対0をやりたがるようにも思いますし、100対0をやって論破している人をエンタメ的に消費して見たがる気持ちもわかります。ただ、その論破している人達も実際には「本当は論破をすることはそんなに得ではない」と言っていますね。