ベスト、ベター、ワーストではなく「ワース」を目指せ

【鴻上】日本人の場合、ベストな結論ではなくても、ベターを探せと言われることが多いと感じます。そのためか、お互いがwin-winの関係になることが、とにかく目標とされがちです。

鴻上尚史、中野信子『同調圧力のトリセツ』(小学館新書)
鴻上尚史、中野信子『同調圧力のトリセツ』(小学館新書)

でもベターでもなく、悪いほうの結論であっても、少なくとも最悪、ワーストではないところに着地するなら、全然構わない時ってありますよね。お互いが同じ分量だけ我慢をして、同じぶんだけ引いていて、お互いワーストではなく、「ワース」な結論というのがあると思うんです。

【中野】でも、はっきりさせなかったことで、その後の納得ができたり、関係を大事にできたりする時もありますよね?

【鴻上】演劇プロデューサーの知り合いには、スタッフのこの人もあの人も不満を言っていて、とにかくその場で結論を出さなきゃいけない時に、時間が経てばなんとかなるからと言う人がいたりします。

確かに不満を言うことが目的の人もいますから、言ったことで納得する場合もあります。しかし、不満を言って何も解決しない場合は納得しない人も間違いなくいるんです。だから、ベターな解決方法がない場合、当事者同士がワースでもお互いがマイナスを引き受ける結論を出した方がいいと思うんですよ。

「そこをなんとか」が通用するのは日本語だけ

【中野】そんな場面によく使われて、しかも英語に訳しにくい日本語の言葉の1つに、「そこをなんとか」がありますよね。

【鴻上】そもそも英語には「そこをなんとか」みたいな言葉がないですものね。

【中野】そうなんです、ないんですよ。でも日本だとけっこう使われる言葉で、とても日本的。でも、西洋的な価値観でこれだけ破綻はたんしてきている世の中ですし、日本を何の吟味もせずただ米国やヨーロッパに合わせようという論には疑義があります。