未開の民族の自然物に対する精密で体系的な知識

その最初の章「具体の科学」において、レヴィ=ストロースは、未開の民族の不思議な2つの現実を紹介します。そのひとつは、未開の民族が、自分たちの周囲にある自然の草花や昆虫や動物について、精密な知識をもっていることです。もうひとつは、そうした自然物からいろいろな薬効を発見していることです。まずは、精密な知識という最初の話から。

レヴィ=ストロースは、未開の民族が、彼らの周りを取り囲む自然物や動植物についてもっている知識が膨大で体系的で緻密なものであることを、それについて調べたいろいろな文献から事細かく紹介します。たとえば、南カリフォルニアのある砂漠地帯に住んでいたコアウィラ・インディアンは、一見したところ自然の恵みに乏しいと思われる当地にあって、食用食物として60種、麻酔性、刺激性、または薬用の植物として28種を弁別していたといいます。また、別のインディアンは一人で植物の種・変種250種を識別し、また別のインディアンは350種の植物を、また別のインディアンは500種の植物を知っていたことも述べています。

こうした周囲の自然物についての彼らの精密な知識は、それら自然物についての入念な注意と観察、そして細かく識別する力が、彼らに備わっていることを示しています。そしてその力は、現代の科学的な観察力や分析力にも通じるところがあるとレヴィ=ストロースは考えます。

クロード・レヴィ=ストロース
Claude Lévi-Strauss
1908年、ベルギー生まれ。フランスの人類学者。構造主義を代表する思想家。1960年代以降、フランスで盛んになった構造主義は、「人間とは何か」をテーマとしたそれまでの「実存主義」に対し、「人間はあくまでも構造の中の要素のひとつである」と考える。また、構造主義は、社会や文化の現象は言語の構造と似ていると考える。レヴィ=ストロースは、人類学に初めて構造主義を導入したことで、実存主義では分析ができなかった未開社会の人間関係を分析することに成功した。2009年没。享年100。写真は2011年に刊行された伝記。


『レヴィ=ストロース伝』
ドニ・ベルトレ著、藤野邦夫訳、講談社/本体価格3800円