不思議な薬効リスト

こうした力をもった未開の民族が、それら自然物から薬効を発見するのですが、そのこと自体、それほど不思議なことはありません。彼らの慎重な観察力(そしてそれに伴う分析力)をもってすれば、いろいろ試行錯誤的に実験し確かめるという手続きはお手の物でもあるからです。

ですが、ここで興味をひかれるのは、「こんな自然物から、こんな薬効が?」と私たちが驚くような、かなり突飛な自然物と薬効の関係も、彼らが導き出す点にあります。レヴィ=ストロースたち文化人類学者が紹介する彼らの観察力からすれば、ちょっと不思議の感を禁じえません。これがもう1つの不思議な現実です。

たとえば、ヤクート族。彼らは、不妊症には、蜘蛛と白い地虫を呑み込むとよいと言います。また、リューマチには赤地虫の水漬がよく、歯痛にはキツツキの嘴に触れるとよいと言います。ヤクート族を含めたシベリアの諸部族から、こうしたいわば私たちには想像を絶するような薬効のエピソードが次々に紹介されます。キツツキの血を飲む、クチャ鳥の卵を呑み込む、ドジョウやザリガニを生きたまま呑み込む、蝙蝠の干物を首にぶら下げる……。

はたして、何に効くというのでしょうか。読者の皆さんには、クイズとして出したいところです。レヴィ=ストロースは、こうした不思議な自然物―薬効リストは、世界のあらゆる地域からもってくることができると言います。

(編集部=撮影/ジュンク堂書店吉祥寺店=撮影協力)
レヴィ=ストロースは1977年以来5回来日している親日家でもある。その著作は現在に至るまで、日本の人類学者に大きな影響を与えている。『悲しき熱帯』(中公クラシックス)、『悲しき南回帰線』(講談社学術文庫)、『構造人類学』『神話論理』(みすず書房)など、大型書店の人文書コーナーには、必ずレヴィ=ストロースの著作が並んでいる。