「米を食うとバカになる」という本が大ベストセラーに

第2次大戦後、米国は日本人の食生活を無理やり変えさせてまで、日本を米国産農産物の一大消費地に仕立てあげようとした。

そのために、さまざまな宣伝・情報工作も行われた。

日本人にアメリカ産の小麦を売るために、「米を食うとバカになる」という主張が載った本を、「回し者」に書かせるということすらやった。

頭脳 才能をひきだす処方箋』(はやしたかし著、光文社)という本がそれである。

炊きたてのご飯
写真=iStock.com/gyro
「米を食うとバカになる」という本が大ベストセラーに(※写真はイメージです)

食料難の戦後がようやく終わったころの1958年に出版されたこの本は、その後の日本の農業に、大きなダメージを与えることになった。

いまでこそ、同書の存在はほとんど忘れ去られているが、当時は発売3年で50刷を超える大ベストセラーであり、日本社会に与えた影響は非常に大きかったのである。

この『頭脳』という本には、「コメ食低能論」がまことしやかに書かれている。

著者の林氏によると、日本人が欧米人に劣っているのは、主食のコメが原因なのだそうだ。

「これはせめて子供の主食だけはパンにした方がよいということである。(中略)大人はもう、そういうことで育てられてしまったのであるから、あきらめよう。悪条件がかさなっているのだから、運命とあきらめよう。しかし、せめて子供たちの将来だけは、私どもとちがって、頭脳のよく働く、アメリカ人やソ連人と対等に話のできる子供に育ててやるのがほんとうである」(『頭脳』161~162ページ)

この記述は、当然ながら、科学的根拠がまったくない「暴論」と言わざるを得ない。

だが、著者の林氏が慶應大学名誉教授であったことも手助けしたのか、当時はこれが正しい学説としてまかり通ったのである。