医師の地方離れ・「多忙科」離れを加速させた新専門医制度(2018)

医師の「地方離れ」「多忙科離れ」への対策として2018年度から開始されたのが、新専門医制度である。だが、これが完全に裏目に出た。

新専門医制度では、さまざまな学会が設けた「○○専門医」という資格を、眼科・精神科など19の専攻に分けて、「A医大の眼科専攻医は上限○○人」のようなシーリング(定員)を設け、2年間の初期研修を終えた若手医師は、その専攻コースのいずれかに応募することとなった。例えば、「東京都の眼科」の定員を厳しくすれば、「地方や外科にも人が回る」ので「過度な集中を防ぐ」とうたわれた。

ところが、実際の応募結果では、都市部のマイナー科人気は変わらず、外科や産婦人科は減少した。加えて、研修が実質的に2年間延びた内科専攻医も減少した。

マイナー科専攻医のシーリング選考に敗れた若手医師はどうしたかといえば、こちらも多忙科には回らず、「1年浪人して就職活動」もしくは「東京に残り美容系医師・検診フリーター医・結婚して主婦」に転身といった事例が後を絶たなかった。

皮肉なことに、専門医として就職するよりも、検診フリーター医の方が高収入で自由時間も多いという事例や、SNSなどで美容系医師の華やかな生活を見る機会も増え、若手医師の専門医離れに拍車をかけている。

ノートパソコンを手にもって立つ女性医師
写真=iStock.com/Siraphol
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コロナ禍で進行した大学病院離れ

大学病院不人気の最大の理由は、薄給激務だろう。日本の大学では「週4コマの講義だけがノルマの文学部教官」も、「授業に加えて、当直・手術・研究も行う医学部教官」も給与水準はさほど変わらないと言われる。

驚く人も多いが、大学病院医師の給与は同年看護師以下のケースも多い。他病院への診療アルバイトによって生計を維持するシステムになっている。それでも「心臓手術が盛ん」「研究ができる」などの仕事のやりがいを心の支えに、大学勤務を続ける中堅医師もそれなりに存在していた。

しかし、2020年以降のコロナ禍で、大学病院の中堅勤務医は、今なお「白い巨塔」感覚の教授や病院長に「県外アルバイト禁止」「心臓外科は手術休止、発熱外来を担当せよ」などと命令され、収入が激減した挙げ句に、ゲームのコマのように扱われる事例が相次いだ。

「生殺与奪の権を他人に握らせるな」とは大ヒットマンガ『鬼滅の刃』のセリフだが、筆者と交流のある大学病院の医師たちは、突然の減収やら、ライフワークの剝奪やら、「自分の収入や人事権を他人に握らせる脆さ」を実感した者が多い。

長引くコロナ禍での不本意な扱いに疲れ果てて転職した中堅医師も少なくはないし、それを目の当たりにした医学生や若手医師はますます大学病院を敬遠するようになった。