松下幸之助さんとは明確に違う理由

経営破綻したJALの再生を手がけることになった経緯も、稲盛氏らしい。2009年に民主党が政権を取った後、国土交通大臣になった前原誠司氏と会食をしたことがある。私は「JALの立て直しの指揮を執るのは、航空会社の再生実績がある外国人のプロ経営者がいい」と勧めた。航空会社の立て直しはプロにやらせればそれほど難しくない。しかもJALは組合が強く、日本人経営者ではうまくいかない可能性が高い。

しかし、前原氏は「実はもう稲盛氏に頼んだ」という。私はあわてて稲盛氏に電話をかけ、「断ったほうがいいですよ」と助言した。

飛行機の燃費はパイロットの腕に左右される。再生のために、下手なパイロットに改善を求める場面も出てくるだろう。しかし、注意された側はおもしろくない。重大な事故が起きれば、「稲盛氏のコストカットのせいで事故が起きた」と吹聴ふいちょうしかねない。稲盛氏を大事に思うからこそのアドバイスだった。

しかし、翻意させることはできなかった。前原氏の選挙区は京都だ。昔から応援してきて、ようやく大臣になった喜びもあったのだろう。「受けたからやる」とJALの会長に就任した。

いい意味で私の予想が裏切られたことは周知のとおりだ。腹心の大田氏を帯同して乗り込み「JALフィロソフィ」などで組合まで味方につけ、アメーバ経営の手法で見事に再生。破綻から2年8カ月というスピードで株式再上場を果たした。まさに経営の神様の面目躍如だった。

同じく経営の神様と呼ばれた存在に、パナソニック(旧松下電器産業)の創業者、松下幸之助氏がいる。私は両者に親しくしてもらった数少ない人間だと思うが、同じ経営の神様でも二人はタイプが明確に違った。

松下氏は財界活動に関心がなく、むしろネガティブにとらえていた。経営者が自社の経営のこと以外に関心を持つのはけしからんというわけだ。

一方、稲盛氏は日本を変えたいという政治的野心に突き動かされていた。エスタブリッシュメントが支配する構造を在野から変えることが生涯の目標になり、得度後もそれは揺るがなかった。日本を変えたいという思いは、むしろ執念に近かった。その望みは叶わなかったが、世界に知られる名経営者として一生を閉じた。謹んでご冥福をお祈りしたい。

(構成=村上 敬 写真=Kodansha/アフロ)
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