「ゴルバチョフのせいでウクライナを失った」

ミハイル・ゴルバチョフ元ソ連大統領が、2022年8月30日に91歳で亡くなった。西側諸国にとっては、ソ連という独裁国家を変革した大功労者であり、米ソ冷戦を終わらせたことでノーベル平和賞を受賞したと記憶されている。私も、ゴルバチョフ氏の業績は非常に高く評価している。

ゴルバチョフ氏とプーチン大統領
ゴルバチョフ氏(左)とプーチン大統領。(EPA=時事=写真)

しかし、9月3日にモスクワで営まれた彼の葬儀は、国葬ではなかった。しかも、プーチン大統領は公務を理由に参列しなかった。2007年に亡くなったボリス・エリツィン元大統領の国葬とは明らかに差がある。

ゴルバチョフ氏は、ロシア国内での評判がよくない。大国ソビエトを崩壊させバラバラの国家にした、生活が苦しくなった、貧富の差が広がった……という国民の不満があるのだ。「一時的とはいえ、何でも言える自由が芽生えた」という前向きの評価もあるが、大多数は“塩対応”だ。

プーチン大統領は、意外に大衆迎合する面がある。彼は計算高いから、ゴルバチョフ氏への酷評を歓迎しているはずだ。「今日の困窮は、ゴルバチョフがソ連崩壊を招いたせいだ」と国民が再認識すれば、現在のウクライナ情勢で評価が下がりかねない政権への許容度が高まるからだ。いや、それ以上に苦労してウクライナを取り戻そうとしているのは、「そもそもゴルバチョフが原因でウクライナを失ったからだ」と言いたいのだろう。