ロシアを批判する日本の保守派は矛盾していないか
【中島】また、日本の国際政治学者の中には、ウクライナ戦争がアメリカとロシアの「代理戦争」であると指摘すると、強く反発する人たちもいます。彼らがいうには、この戦争はロシアから一方的に侵攻されたウクライナが反撃を試み、アメリカがそれを支援しているだけで、米ロの代理戦争という見方はウクライナの主体性を無視している、ということになるようです。
しかし、ミアシャイマーが指摘するように、この戦争はNATOの東方拡大を抜きには語れません。むしろアメリカというファクターを無視する方が非現実的です。
もう一つ付け加えると、日本のいわゆる保守派の多くは、ロシアを批判し、ウクライナを応援していますが、ここにもねじれがあります。というのも、彼らはその一方で、日米戦争の開戦プロセスはアメリカに非があり、日本にも正義があったと主張しているからです。そうであれば、プーチンがなぜ戦争に踏み切ったのかにも目を向けるべきです。日米戦争を肯定しつつ、プーチンのいい分を全否定するのは矛盾といわざるをえません。
【東郷】最近、日本の若手の学者の方々はよくテレビに出演されていますね。みんな優れた知性の持ち主で、私も彼らの話を聞いて大変勉強になっています。
しかし、中島さんがご指摘されたように、彼らはネオコンの論理にとらわれ、ネオコンのルソフォビア(ロシア嫌悪症)すらそのまま受け入れているように見えます。とにかくプーチンを打倒することしか考えていないのではないでしょうか。
「プーチン打倒」だけではウクライナの人々を救えない
【東郷】しかし、そうした考え方をしている限り、戦争は終わりません。彼らのウクライナを助けたいという気持ちに嘘偽りはないと思いますが、それは結果としてさらに多くの犠牲を生み出すと思います。
【中島】現在の日本政府もアメリカ一辺倒で、ネオコンと同じような対応をとっています。岸田政権はこれまでの方針を転換し、対ロ強硬路線に舵を切りました。ここまで特定の国との関係をバッサリ切り捨てた例はほとんどないと思います。
【東郷】そうですね。日本の外交史に残る出来事だと思います。通常、こういうときは外務省から反対意見があがるものです。実際、他の国ではそういう動きが見られます。六月八日のニューヨーク・タイムズには、アメリカの諜報機関がウクライナ側から軍事戦略や戦況について十分な情報提供がなされていないことに不満を持っているという記事が掲載されています。これは明らかに政権内からのリークです。バイデン政権の中に対ロ強硬路線を続けることに疑問を持つ人がいるということです。
ところが、日本ではこうした動きはまったく見られません。大変残念ですが、いまの外務省はとにかくバイデンの方針に従うことしか考えていないように見えます。