日本の外交は取り返しのつかないことをしている

【東郷】もう一つ重大な問題は、バイデン政権の対ロ政策が結果的に中国の台頭を招いているということです。アメリカはロシアに多くの力を割くようになったことで、中国にプレッシャーをかける余裕がなくなりました。それによって中国はフリーハンドを手にし、アメリカとの関係において立場を強めています。また、ロシアが中国を全面的に頼るようになったことも大きいと思います。中国は何もしていないのに、漁夫の利を得たのです。

これは日本にとっても深刻な問題です。日本は台頭する中国とどう対峙たいじすべきなのか。

まず何よりも重要なのは「抑止と対話」です。日米同盟を強化するとともに防衛力を高めつつ、中国との対話を重ねていく必要があります。

それと同時に、日本外交が主戦場とすべき北東アジアでできるだけ味方を増やす、少なくとも敵をつくらないことが大切です。その対象となる国はロシアと韓国しかありません。

しかし、ロシアはウクライナ戦争の結果、日本を非友好国ないし敵対国と位置づける可能性があります。また、日本は韓国と安全保障上の利益を共有しているといっていますが、植民地問題に関して和解へと動き出す様子はありません。日本は大切にすべき二つの国に対して、取り返しのつかないことをしているのではないでしょうか。

今こそインド外交に学ぶべき

【中島】私は政治家の大平正芳を尊敬しているのですが、大平は総理時代、「環太平洋連帯構想」を提唱しました。これは米中のどちらか一方を選ぶのではなく、米中の間の均衡点を見極めつつ、環太平洋という枠組みの中で中国をソフトランディングさせていくという考え方です。

この背景には、大平が重視した「楕円だえん」の思想があります。楕円形のように二つの中心があり、それらが均衡を保ちつつ緊張した関係を維持していれば、一つの正義を盲目的に信じることはなくなります。これによって無謬性にとらわれることを回避しているわけです。これはまさに保守思想のエッセンスです。

私は現在のロシアや中国に対しても、こうした姿勢で臨むべきだと考えています。アメリカとの関係を大切にしつつ、中国やロシアともしっかり付き合い、彼らの覇権主義の牙を抜いていく。これは理想論ではありません。実際にインドがそうした外交を行っています。彼らはアメリカや日本と友好関係を維持する一方、ロシアとも付き合っています。日本はいまこそインド外交に学ぶべきです。

インド議会
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