戦争を終わらせるために何が必要か
【東郷】最後にウクライナ戦争をどうやって終結させるかについて議論したいと思います。
冒頭で述べたように、欧米にはわずかとはいえ停戦を求める動きがあります。特にヨーロッパは和平を模索しているように見えます。六月一六日にフランスのマクロン大統領とドイツのショルツ首相、イタリアのドラギ首相(当時)がゼレンスキーと会談し、ウクライナがEUの加盟候補国になることを支持しました。これは対ロ強硬路線の延長のように見えますが、実際にウクライナがEUに加盟するにはロシアとの和平が必要なので、そのための布石を打ったとの見方があります。
しかし、ウクライナへの武器提供の流れが止まったわけではありません。六月一五日にはアメリカ主導でウクライナへの軍事支援について話し合う会合が開催され、NATO加盟国などおよそ五〇カ国が参加しました。六月一七日にはイギリスのジョンソン首相(当時)がゼレンスキーと会談し、武器の提供や、イギリスがウクライナ兵に軍事訓練することを提案しています。やはりアングロサクソンは戦争をやめるつもりはないようです。
事態打開のカギを握るのはやはりバイデン大統領
【東郷】ミアシャイマーは六月一六日に欧州大学院(EUI)で講演し、「ウクライナ戦争は多重的惨事であり、予見できる将来、状況はさらに悪化する」と述べています。この見方は正しいと思います。
実際、10月8日にはロシア本土とクリミアを結ぶクリミア大橋が爆破されました。また、ウクライナは、リトアニアが自国の領土を通ってロシアが制裁対象の物資をカリーニングラードに輸送することを禁じました。米ロの政治に影響力を持つドミトリー・サイムズは六月二一日にアメリカの雑誌『ナショナル・インタレスト』で、これは一九四八年にソ連が西ベルリンと西ドイツをつなぐすべての陸上交通を遮断したことに似ているとして、プーチンは当時のアメリカと同じように激しい反応に出るだろうと強く警告しています。
事態打開のカギを握るのは、やはりバイデンです。バイデンがゼレンスキーに「これ以上戦争を続け、被害を拡大してはならない。アメリカの武器援助には限界がある。失われていくウクライナ人の命のことを考え、どこまで領土を保全すべきか見極めてほしい」といわなければなりません。もしゼレンスキーが自ら停戦を決断すれば、そのとき彼は本当に偉大な大統領になると思います。バイデンとゼレンスキーにそこまで踏み込む勇気がないとすれば、戦争は拡大され、無数の命が失われることになります。暗澹たる思いです。