自ら石炭火力発電の再開に踏み込んだ手前、石炭火力発電の廃止について今のEUが強いメッセージを発することは、途上国のみならず世界的な共感を得にくいと判断したのかもしれない。
EUが野心的な気候変動対策を志向する事情
世界各国に気候変動対策の強化を訴えながらも、自らがタブー視した石炭火力発電を再開したこともあり、石炭火力発電に関する強いメッセージを打ち出すまでは踏み込まなかった閣僚理事会は、それでもまだバランス感覚があるといえるだろう。
一方で、閣僚理事会とともにEUの立法機能を果たす欧州議会は、気候変動対策でさらに野心的な主張を堅持している。
現在、欧州議会と閣僚理事会は「Fit for 55」と呼ばれる、1990年比で55%減以上と定めた2030年の温室効果ガス削減目標の実現ための政策パッケージを協議している。そして欧州議会は、最終エネルギー消費ベースのエネルギーミックスに占める再エネ比率の2030年目標を、現行の32%以上から45%以上に上げるべきと主張する(図表2)。
これに先立ち、EUの執行部局である欧州委員会は今年5月、化石燃料の「脱ロシア化」を進めるための行動計画「リパワーEU」を発表し、この中で最終エネルギー消費ベースのエネルギーミックスに占める再エネ比率の2030年目標を45%以上に上げるよう提案していた。欧州議会の野心的な主張は、この欧州委員会の提案に沿ったものだ。
欧州議会で勢いを増す環境会派
当初、欧州委員会は目標値を32%以上から40%以上に上げるべきと提案していたが、ロシアのウクライナ侵攻を受けてその目標を45%以上に上げるように再提案した経緯がある。
閣僚理事会は40%以上に引き上げるべきだという欧州委員会の提案には同意しているが、それを45%以上に高めるべきという「リパワーEU」での提案には同意していない。
環境会派が勢力を強める欧州議会は、気候変動対策の強化を訴える。欧州委員会もまた、EUの世界的な影響力を高めるという観点から、気候変動対策の強化を志向する。閣僚理事会はまだ国際世論に配慮する姿勢を見せているが、EU全体の本音は、引き続き気候変動対策について世界各国に野心的な気候変動対策を求めることにあるといえよう。