京急のウィング・シート、京王ライナー、阪急も…

東横線の運行形態について福田社長は「両端の駅で折り返しが可能で、停車時間を確保して出発待ちができるため、比較的導入しやすい」と語っていることから、渋谷駅始発の列車を設定するとみられる。朝は上り方面、夜は下り方面に設定するのか、それは特急になるのか、詳細はまだ明らかになっていない。

このほか、通勤用途ではないが、京急電鉄が2019年から土休日の一部快特列車2号車に座席指定車両「ウィング・シート」を設定していることも一例と言えるかもしれない。

今後、この流れは加速していきそうだ。京王電鉄は5月に公表した2022年度設備投資計画の中で、京王ライナーをさらに発展させる形で「一部座席指定列車の導入等による終日運行の検討を進める」と記している。

京王線新宿駅
写真=iStock.com/tupungato
※写真はイメージです

また阪急電鉄も10月12日、京都線で2024年に座席指定サービスを導入すると発表した。詳細は未公表だが、特急・通勤特急・準特急でサービスを開始する予定とあることから京阪と同様に種別限定で一部車両を指定席とする形になると思われる。

運行本数減の代わりに付加価値アップの動き

コロナ禍で2~3割減少した通勤利用者は収束後も元には戻りそうにない。朝ラッシュ時間帯は膨大な利用者を最大限効率よく運ぶために多数の列車を設定する。運行本数が多すぎると列車は数珠つなぎに走らざるをえず、前方の列車を追い越す快速列車・急行列車を多く設定することができない。設定されていたとしても日中よりも所要時間が長くなる。

需要が減少し、これに対応して運行本数が減少すれば輸送力の余力を別に振り向けることができるようになる。そこで座席指定列車(車両)の設定は貴重な増収策であるとともに、沿線価値向上にもつながる施策だ。

実際、東武東上線では2021年3月のダイヤ改正で準急列車2本を削減し、朝ラッシュ時間帯に上り「TJライナー」を2本増発している。このように列車本数を削減して生じた輸送力の余裕を座席指定列車の増発に充てるか、あるいは東急の「Qシート」のように1編成あたりの定員を減らす形で座席指定車両を設けるか、あるいは輸送力の余裕を優等列車の増発に充てた上で、京阪の「プレミアムカー」のように優等列車限定で座席指定車両を増結するという選択肢もあるだろう。

着席通勤というとお金に余裕がある人向けの贅沢なサービスというイメージがあるかもしれないが、毎日利用しないとしても、座って作業をしたい時、朝食をとりたい時、体調がすぐれない時など、誰にとっても選択肢が増えることは悪い話ではない。

今後ますます多様化が予想される通勤シーンにおいて、鉄道事業者がどのような選択肢を提示できるのか注目していきたい。

【関連記事】
東京随一の"セレブ通り"を走る富裕層が「テスラやレクサス」を選ばないワケ
「間違えたんだから、責任を取れ」オペレーターに詰め寄るモンスター客に上司が放った"爽快なひと言"
鉄道マンが「JR東日本の社員4000人カット案」を"最悪のシナリオ"と恐れる本当の理由
「仕事やお金を失ってもやめられない」性欲の強さと関係なく発症する"セックス依存症"の怖さ
タダ同然の魚から利益を生む…月給3万円の24歳シングルマザー社長が日本の漁業に起こした"奇跡"