「私をトップに指名していただいたのは、(高級品を身に着けていない)そうした部分も含めてのことだと思います。だからトップになったことで態度が急変したら、期待を裏切ってしまうことになります」
崎陽軒の社長になってからもぶれていない。華美な格好はしないし、傲慢にもならない。これは父から受け継いだ“家訓”も関係しているだろう。
「お前、ベンツには乗るなよ、とよく言われました。われわれは5円、10円の積み重ねで商売させていただいている会社だから、と会長からずっと聞かされてきました」
ベンツというのは比喩だが、要するに、庶民の目線に立って経営しなさいということだろう。ちなみに、野並社長の自家用車はトヨタ・アルファードである。会長夫妻も加えると大家族になるため、「大きなクルマが必要だった」という。
社長が誰であるかより、シウマイが大事
社長として偉ぶらない理由はほかにもある。トップであっても組織の一人にすぎないという考えがあるからだ。
「社員がいるからこその会社です。皆に気持ち良く働いてもらわないと、崎陽軒としての評価も上がりません。社長としての責務は果たしますが、一人ですべてを背負っていても仕方ない。一人で頑張ることよりも、2000人の社員で頑張ったほうが、絶対に良い力になりますから」
そして、大前提にあるのは、横浜市民に愛されるブランドを作り続けること。自分自身の地位や名誉を守ることよりも、市民の思いに応えることが優先される。「お客さまからすれば、崎陽軒の社長が誰であるかよりも、シウマイ弁当をおいしく食べられることのほうが重要なのです」と野並社長は強調する。
社長就任早々から波乱の連続だったが、飄々とやってのける野並社長に、新時代の崎陽軒の輪郭を見た気がした。