日本の単身赴任は「社員への罰なのか?」
【有沢】例えば、転勤の人事制度改革では、家族が一緒に暮らすことを大切に考えました。私がこの考えに至ったのは、欧米出張における会食がきっかけでした。
会食中の何気ない会話で、現地のローカルのCEOや管理職に日本の単身赴任の仕組みについて話をしたことがあります。日本では転勤をきっかけに、父親や母親が家族と離れて異なる地域で一人暮らしをすること、数カ月に一度だけ家族の待つ自宅に帰ることはよくあることだ、などと話しました。すると現地法人のメンバーは驚いた顔をして私にこう言いました。「それは何かの罰なのか?」「その社員は何か罪を犯したのか?」
欧米では、少なくとも子どもが高校を卒業するまでは、家族一緒に暮らすことが当たり前です。会社の施策で家族がはなればなれになることは異常だ、と言われました。そう言われて私は、たしかにそうだな、と思いました。
カゴメにおける人事制度改革は、カゴメが価値創造し続けるために、そして社員が能力を発揮して活躍し続けられる会社であるために策定しました。その背景には、こうしたエピソードを含む私のこれまでの経験がありました。以下に、具体的な制度をご紹介します。
「配偶者の転勤退職」を防ぐために
【有沢】女性の退職理由で最も多いのが配偶者の転勤です。まだまだカゴメで働きたいという希望があるならば、その理由で会社をやめてしまうのは、本人にとっても会社にとっても損失です。これを会社の仕組みでサポートできないかと考え、導入したのが「地域カード」です
地域カードには2つのオプションがあります。1つは、留まりたい地域に留まることができるオプション、いわゆる転勤回避制度です。
もう1つは、希望勤務地へ転勤できるオプションです。2回まで利用することができ、1度利用すれば3年間有効です。つまり、3年間×2回=6年間は、自分の希望する勤務地で働くことができるわけです。
全社員が対象ですから、工場勤務の方も利用できます。社員が地域カードを行使すれば、原則としてその権利が尊重されます。ただし、理由は必ず確認します。配偶者の転勤が一番多い理由で地域カードを活用している社員もたくさんいます。
社員に単身赴任をさせないためにこの制度を導入しましたが、カゴメとしては転勤そのものを廃止するつもりはありません。なぜならば転勤は、その後の人生に影響を与えるような新しい出会いのチャンスにもなり得るからです。また、地域カード導入前には東京や大阪に希望が集中するのではという懸念事項が役員から挙がりましたが、それは杞憂に終わりました。