チケットが買えない、ホテルの予約が取れない

野球しか知らなくて、非常識でインモラルであっても、大スターになれば引退してもそのまま世渡りができる。

しかしそれはほんの一握りだ。野球選手もいずれは引退して球団を離れて社会に放り出される。そのとたんに途方に暮れることがよくあるのだ。

ある独立リーグ球団の社長は、元プロ野球選手を監督やコーチに迎える際に

「契約をするから何月何日にうちの事務所に来てください、と言うと、多くが新幹線や飛行機のチケットを取ったり、ホテルの予約をしたことがないんですが……って言うんですね。私はかわいそうだなとは思うけど、この先のためにならないと思うから、自分で取ってきてください、と言うんです」

と話す。多くの元選手は、野球界を離れると、まるで「孤児」のような境遇になるのだ。

ストレスにかられ頭を抱えるビジネスマン
写真=iStock.com/Arnon Mungyodklang
※写真はイメージです

選手への教育のきっかけとなった“ある事件”

2016年に巨人を中心に起こった「野球賭博」事件も、社会常識に疎く「反社」などへの免疫がない野球選手だから起こったという側面がある。

この事件で有為の選手が何人も将来を断たれたが、NPB球団側はようやくこの頃から、選手に社会常識を教えるようになった。

ある球団のスカウト部長は、自分が獲得した新人選手に「この社会はどんな仕組みになっているか」「自分たちの年収は、どういう仕組みで支払われているか」「スポーツビジネスはどんな構造になっているか」などの講義を行っている。

「別に球団から頼まれたわけじゃないけど、見てるとみんな危なっかしいので自分から先生役を買って出たんだ」という。

野球一途で生きてきた若者には、将来を考えれば、どこかのタイミングで、何らかの形で「社会性を身に付ける」機会を与える必要があるのだろう。