ほかのスポーツ選手との決定的な違い

プロ野球選手は成功すれば、若くして大企業の社長を上回る収入を得ることになる。自分の金で何でもできるから、ご馳走やプレゼントもうれしくない。

同じ人気スポーツの大相撲の力士は日本相撲協会からもらう給料、場所手当、持給金(本場所毎に支払われる褒賞金)を合わせても収入はそれほど多くない。それよりも贔屓筋ひいきすじ(タニマチ)からもらう祝儀の収入が大きいから、経営者など年長者への礼儀をわきまえているし、社会常識を教えてもらう機会もある。

しかしプロ野球選手は「手銭で遊ぶ」ことを好む。自己中心的な遊びをする選手が多いのだ。

また鍛え抜かれた肉体を持つ野球選手は、高校時代から女性ファンから近づいてくる機会も多いから、女性には不自由しない。既婚の選手でも女性と遭遇する機会は多いが、倫理観に乏しい選手の中にはやすやすと浮気をすることもある。

さらに軍隊方式の絶対服従の社会で育ってきた野球選手は、先輩、指導者の言うことには絶対服従だが、野球界以外の人の言うことには、なかなか耳を傾けない。とにかく「野球界のヒエラルキー」の中にこもりがちだ。

端的に言えば、野球以外のことをほとんど学ばず、社会常識やモラルも知らず、閉鎖的な社会で育ってきた若者が、たまたま持ちつけぬ大金を持って、いきなり「全能感」をもったがために、こうしたスキャンダルが頻発するということになるだろうか。

入団会見前に外車を購入する高卒新人

筆者は数年前に高校ラグビーの強豪である東海大仰星高ラグビー部の湯浅大智監督に話を聞いたことがある。湯浅氏は

「野球と違ってラグビーはいくら強くても、それで食べて行けるわけではない。だから選手には、ラグビーの練習だけでなく勉強もしろ、本も読め、映画も見ろ、見聞を広めろと常々言っている」

と語った。「野球さえうまければ、どんなことでも許される」野球との違いは大きいのだ。

ただ、一方で佐野正幸さんは野球界には「常識人系」と「体育会系」の2つの系統があるとも言っている。非常識な行動をするのは「体育会系」であり「常識人系」はそうではないと言うのだ。

筆者は元ロッテのクローザーだった荻野忠寛さんにはいろいろご教示いただく間柄だが、さしずめ荻野さんは「常識人系」の典型だろう。社会人の日立製作所からプロ入りした荻野さんは、多額の収入を手にしてこのままでは金銭感覚がおかしくなると思い、球場の行き帰りにもタクシーなどは使わず電車通勤したという。「同期で入団した高校上がりの選手はばんばんタクシーに乗っていましたが」と言う。

関東地区の高校からドラフト1位で指名されたある選手は、契約金を手にするとすぐに高級外車を購入した。この時期、たまたまある練習施設で彼のチームメートと話す機会があったが「あいつ、まだ入団会見もしてないのに、女の子乗せて走り回ってますよ」と苦々し気に言った。

球団もドラフト上位で入った選手は「将来の球団を背負う」逸材だから、若くても最上級の待遇をする。身の回りの世話も、食事も宿泊もユニフォームの洗濯もマネジャーやスタッフが担当する。選手は「野球をする」だけだ。