借金や固定金利の住宅ローンは「有利」

このように現金、銀行預金、債券はインフレにおいて著しく不利なわけですが、逆に借金は有利に働きます。

5年後に返済する契約で100万円を借りていた人がいるとしましょう。先ほど例に挙げたように、インフレが進み、5年後に物価が1.5倍になった場合、100万円の自動車は150万円になっているはずです。ところが100万円の借金は当初の契約通り、物価が1.5倍でも100万円を返すだけですみます。実はインフレが進んでいる時に借金をすると、インフレ分だけ利益を得ることができるのです。

だからといって、むやみに借金をすることは絶対にやめるべきですが、固定金利で住宅ローンを組んだようなケースでは、貸し主に対する支払い総額は変わりませんから、場合によってはインフレで大きな利益を獲得することも十分にありえます。

物価が2倍になれば、政府の借金は半分に

過度なインフレでもっともトクをするのは政府でしょう。

現在、日本政府は1000兆円の債務を抱えており、これが原因でなかなか金利を上げられないということは第2回の記事でご説明しました。もし金利が大幅に上昇する前に過度にインフレが進んだ場合、物価は急上昇しているにもかかわらず、政府の借金の額は変わりません。最終的に物価が2倍になれば、実質的に政府の借金は半分になります。

この時、国全体で見れば、国民が銀行に預けたお金が実質的に半分に減らされ、いっぽうで政府の借金は実質的に半減していますから、これは国民の銀行預金に多額の税金をかけ、政府の債務返済に充当したことと同じになります。財政学の世界では、インフレが進むことを「インフレ課税」と呼びますが、国民にとってインフレというのは物価上昇分だけ課税されることと同じになります。

日本政府は今のところ税収を増やすことで政府債務を減らそうとしていますが、南米各国のように、意図的にインフレを発生させ、国民から実質的に預金を奪って政府の借金をチャラにしようと試みる政府もあります。

どちらがよいのかは国民の判断次第ですが、政府がインフレを放置した場合、基本的に重い税金が課せられていることと同じであるという現実について理解しておく必要があるでしょう。