※本稿は、伊藤和磨『痛みが消えていく身体の使い「型」』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
ストレスを減らす横隔膜呼吸ができない大人
まずは呼吸の基本についてご説明します。
一般的には胸式呼吸と腹式呼吸が知られていますが、どちらが良い悪いということではなく、呼吸のテクニックとして使い分けられるようにしておくと良いでしょう。
通常では横隔膜を効率的に働かせる「横隔膜呼吸」が理想です。
横隔膜呼吸は特別なものではなく、赤ちゃんや幼児のときには誰もが無意識にしていた呼吸のしかたなのですが、大人になるにつれて浅い呼吸(胸式呼吸)に置き換わってしまう人が大勢います。
呼吸が浅くなる原因はいくつかあるのですが、最も影響が大きいのは姿勢です。猫背になると胸郭と腹部が圧迫され、横隔膜が伸縮できず呼吸が浅くなります。
特に仕事や勉強に集中しているときは呼吸が浅くなりがちですが、そうなると脳が酸素を取り込もうとして呼吸の回数が増加し、その結果、酸素の過剰摂取が起こります。
脳と全身の細胞に酸素を運ぶためには、適量の二酸化炭素が必要であるため、この状態が定着すると、交感神経過活動による全身の緊張、末端の冷えやむくみ、疲れやすさ、消化機能の低下、不安の増大といった問題が生じやすくなります。
理想的な呼吸の回数は1分間に6~8回とされています。このペースで呼吸しているときは、心身をリラックスさせる副交感神経が活性化し、痛みやストレスへの耐性が高まります。
ストレス社会で健やかに暮らすためには、一回の換気量が多い横隔膜呼吸を心がけて、呼吸の回数を減らすことが肝要なのです。
メンタル不調な人ほど浅い呼吸をしている
人は何かに集中しているときや重いものを持ち上げると、体幹を安定させるため無意識に息を止めています。
「息を詰める」「息を潜める」「息を呑む」「息を殺す」「息を凝らす」といった言葉は、どれも息を止めて身体を硬直させた状態のことを表しています。
一時的に呼吸を止めて作業するのは問題ありませんが、肺に入れた空気をしっかりと吐き切らないと、十分に空気を吸い込むことができません。そうなると、脳は息を吸おうとして呼吸の回数が増えてしまうわけです。
もうひとつ、しっかりと息を吐き切らないことのデメリットとして、胸腔の内圧が上昇して心臓への負担が増すことが挙げられます。このとき、副交感神経はうまく働かず、精神的なストレスが高い状態が続きます。実際、メンタル的な問題を抱えている人の多くは、息を吐くのが非常に苦手で浅い呼吸パターンになっています。
日頃から意識していないと、息を吐く能力は低下していき、肺に残っている空気を出し切れなくなります。水泳の息継ぎと同じで、しっかりと息を吐かないと、しっかりと息を吸うことができません。
肋骨を下げて息を吐くことを身につければ、肺に残っている空気を吐き出すことができるので、十分な酸素を取り込むことができます。一回の換気量が増せば余分な呼吸の回数を減らすことにもつながります。