「嫌なものは嫌だ」と言いたがる人たち
【池上】あえて差別するわけではないけれど、心から理解し、容認できるかと迫られると疑問符がついてしまうのでしょうか。一方で、アメリカのトランプ大統領やその支持者の一部のように、露悪的に反LGBTを掲げて見せる人たちもいます。
【増田】確かに、トランプ政権の前後から、LGBTの問題をどう考えるか、が大きな政治イシューとなりました。世界では人権や多様性はどうとらえられているのかを取材すべく、私もアメリカにプライドパレード(性的少数者の文化や権利を主張するパレード)を取材しに行きました。私自身には差別意識はないつもりですが、それでも見せつけるように肌を露出した人たちがキスしたり、絡み合ったりしているのを目の当たりにすると、日米の文化の違いはあれ、かなりの衝撃はありました。
あからさまな差別はせずとも、内心、「何も人前で見せなくてもいいじゃないか」と思う人がいてもおかしくはありませんし、そう感じる人の中から、あえて強く「嫌なものは嫌だ」と言いたがる人たちも出てくるでしょう。反発をおぼえて、差別的な言動を繰り返す人たちが出てくるという悪循環も起きています。
中絶反対の目的は「女性の権利を奪う」ではないが…
【池上】アメリカの共和党の支持者の中には、聖書の教えに反するという理由から中絶反対の声を上げる人たちも多いですね。
【増田】中絶反対を訴える団体の人たちも取材しましたが、話していると、普段は皆さん本当に「素朴ないい人」です。アメリカの地方に住んで、毎週教会に通っているというような人たち。それゆえに、中絶反対をすることによって「女性の権利を奪う」ことを目的としているわけではありませんし、そんなつもりも彼ら・彼女らにはない。普段の市民生活を送っているうえでは、当然ですが全く何の問題もない人々です。
しかし中絶の問題になると、信仰も絡んでくるので強固な反対姿勢を崩しません。中絶に関する相談を受け付ける公的機関の前で、親指大の胎児の人形と出産に関する資料を配って「あなたはお腹の中にいる、こんな小さい赤ちゃんを殺そうとしているんですよ」と、妊娠に悩む女性に中絶をやめ、出産するように働きかけるんです。どんな形の望まない妊娠であっても、出産してくれさえすれば、自分たちが責任もって引き受けるから、と。