「LGBTの容認は堕落」という考え方が出てくるワケ
【池上】プライドパレード批判と言えば、ロシア正教会のキリル総主教がロシア軍によるウクライナ侵攻を祝福した時の演説で、「ウクライナはプライドパレードを容認するような世界に行こうとしているのだ」と主張していました。
ウクライナがNATOやEUに近づくことは、聖書の教えに反してLGBTを容認するような「堕落」した国になることを意味する。だからロシアはそれを食い止めるためにウクライナに侵攻するというロジックです。増田さんが取材した牧師はプロテスタントのカルヴァン派、ロシアはロシア正教会ですが、そうした違いはあっても、一致するところはある。
【増田】ルーマニアは、ロシア正教会と同じ東方正教会の流れをくむルーマニア正教会が多いところです。しかし、19世紀から20世紀にかけて、オーストリア=ハンガリー帝国の一部だった地域もあり、そこにはカトリックの信者がいます。取材で立ち寄った町のカトリック教会では、日曜夕方の礼拝時、教会に入りきれない人たちが外にはみ出すほど、信者の方たちが集まってきていました。
宗派を問わず、とても保守的で、昔ながらの価値観や宗教的規範を、今も自分のものとして信じている人たちにとって、LGBT的な考え方というのは自分たちの認識を根底から覆しかねない脅威のように感じられているのです。自分たちが正しいと思ってきたことが、そうではないと思い知らされることに直面したくないのでしょう。
もちろん、それは差別をしていい理由にはなりませんし、LGBTや中絶の当事者からすれば、反対派の抗議に恐怖を覚えることもあるでしょう。しかしそれでも、保守的な人たちの抱く「変化に対する恐怖心」も理解する必要があるのではないでしょうか。
(構成=梶原麻衣子)