かき氷を売って気づいた波及効果
これで、もろ手を挙げてバンザイ! ……とはいかなかった。
「をかの」の職人は毎日さまざまな商品を作っているため、フルーツ大福だけがたくさん売れるようになると、負担が大きくなってしまう。葛きゃんでぃで現場がパンクした時、職人が辞めてしまったことを思い出した榊は、「これじゃあ、続かない。自分でできることを探そう」と方向転換を決める。
思いついたのは、かき氷。
「この2年間、コロナでお祭りが中止になって、地元で秩父の天然氷を仕入れている会社さんやお茶屋さんが『どうしよう』って悩んでいるのを聞いていました。地元から食材を仕入れたらみんなに還元できるし、自分がお客さんだったらあったら嬉しい商品だし、かき氷なら自分でぜんぶできると思ったんです」
SNS経由で受けた撮影の仕事のギャラなど自分の貯金を使って資材を購入し、本店の軒下にかき氷を食べられるスペースをDIY。同時に、かき氷のシロップ開発も始めた。最初に試作したかき氷を父親に食べてもらうと、評価は「15点」。なにが悪いの? と聞いたら「良い部分がわからない」と酷評されてしまった。
それからたくさんの人たちに試食をしてもらい、意見を聞いて、味を改善。夜になると、手書きのチラシを持ってポスティングにまわった。
2021年7月、ほうじ茶きなこクリーム、煎茶練乳、木苺みるく、パイナップルの4種類を売り始めた。すると、SNSやチラシを見た人たちが食べに来るようになり、それが口コミで広まって客の数が日に日に増えていき、しまいには店先に行列ができるようになった。最終的に7月から9月までの販売期間で、ひとつ850円から900円のかき氷を、1600杯販売。さらに、嬉しい波及効果もあった。
「和菓子を食べたことがなかった人が、かき氷を食べに来きたついでに和菓子を買ってくれて。それがおいしかったからって、別の機会に買いに来てくれた人がたくさんいたんです」
実はこれまで、榊と父親の関係はあまりうまくいっていなかった。榊が次々と新しいことを始めるということは、それまでの経営の否定にもつながる。榊のアイデアは確かにインパクトがあったが、父母やスタッフがそれに振り回された感も否めない。榊は父親と日々接しながら、「心の底から喜ばれてはいない」と感じていたそうだ。
しかし、かき氷に関しては、父母や職人の手を借りず売り上げに貢献しただけでなく、新規の客の開拓にもつなげた。父親もそれを評価したのだろう。
ある日、父親は榊に「ありがとう」と伝えた。それがとにかく嬉しかった榊は、「こっちこそありがとう」と答えた。これを機に、ふたりの間のわだかまりは解けたという。
ラッキーな黒字から地道な黒字へ
同じ年の8月末には、渋谷モディでBASEが運営するポップアップスペース「SHIBUYA BASE」に1週間、出店。父母からは「絶対売れないだろう。やめときなさい」と言われたが、平均して1日10万円以上を売り上げた。この記録は、いまだに「SHIBUYA BASE」の歴代1位である。