世界で初めて鳥の言葉を解明した男
「今、ヂヂヂヂッて鳴いたでしょ。シジュウカラが集まれって言ってます。向こうに何羽か残ってるから、こっちに来てって呼んでますね」
「今、ヒヒヒって聞こえました? あれはコガラが『タカが来た』と言ってます。それを聞いて、シジュウカラも藪のなかに逃げたでしょ。日本語と英語でダイレクトに会話しているような感じで、ほかの鳥の言葉も理解してるんです」
某日、まだ雪が残る軽井沢の森のなかを、京都大学白眉センター特定助教の鈴木俊貴とともに歩いた。シジュウカラの研究を通して、世界で初めて「動物が言葉を話していること」を突き止めた鈴木は今、国内外で脚光を浴びている研究者だ。
鈴木の研究は、「知能の高い動物が人間の言葉を理解する」とか、「特殊な鳴き声や音波でコミュニケーションをとっているらしい」というレベルのものではなく、シジュウカラが20以上の単語を持ち、それらを組み合わせて話していることを明らかにした。つまり、言語能力を証明したのだ。これはまだ、ほかの動物では実証されていないことである。
鈴木によると、軽井沢には80種類以上の鳥が住んでいて、他の地域と比べるとシジュウカラの数も多いという。この森のなかで、鈴木は1年のうち6カ月から8カ月を過ごす。
山のなかにいると、鈴木が常に鳥の声に耳を澄まし、動きを目で追っているのがわかる。あちこちから聞こえてくる「シジュウカラ語」が気になって仕方ないそうで、「人と喋っていても、そっちに気を取られちゃうから、よく怒られます。テレビを観てても、背景の音によくシジュウカラの声が入っているから、集中できません」
一人で始めた「動物言語学」という新領域
古代ギリシアの時代から現代まで、「地球上で言葉を持っているのは人間だけ」というのが、科学の常識だった。それをたったひとりで覆した鈴木の研究は国際的に非常に高い評価を受けていて、今年8月にスウェーデンで開催される動物行動学の学会では、基調講演を担当する。そこで「動物言語学」の創設を提言するという。