消費活動の満足感と子供を持つ喜びの天秤

考えなくてはいけないのは、以下のような状況です。

人々が持っているものは一定の時間です。たとえば、1日なら24時間の時間があります。この時間の振り分け方を考えます。会社に出勤し、働くことに使うと賃金がもらえ、所得が増えます。所得が増えると消費活動を楽しめるようになります。人々は、自分が持つ子供の数も決めます。子供を持つと、そのことから喜びを得ることができます。

しかし、子育てには時間がかかります。子供の数が増えれば増えるほど、多くの時間を子育てに費やさなくてはなりません。すると、犠牲になるのは働く時間です。働く時間が短くなると、手にする賃金の額が減ります。その結果、消費活動から得られる満足感が犠牲になるのです。つまり、人々は子供を持つことからの喜びと、消費活動から得られる満足感を天秤てんびんにかけているのです。

こうした前提のある世界で経済成長が起こると、人々が消費可能な財の種類が増えます。経済成長が進んでも、子供を持つことから得られる喜びが変化するようには思えません。一方、経済成長の結果、消費できる財の種類が大幅に増えたことで消費活動から得られる満足感は大きく上昇します。すると、人々は、より多くの消費活動を楽しむために、より長い時間働こうと考えるようになります。

なぜなら、子供を持つことから得られる喜びは経済成長によって変化していないのにもかかわらず、たくさんの種類の消費財を楽しめるようになった結果、お金から得られる満足感が増えたからです。

消費財の多様化は、少子化の原因の一つ

経済成長の過程で多くの種類の製品やサービスが開発され、消費することができる財の種類が増えると、手にすることのできるお金の価値が上がるのです。すると、人々はより多くのお金を手にするために、より長い労働時間を求めるようになり、育てることのできる子供の数は減るのです。

経済学者の丸山亜希子と私の研究は、経済成長に伴う消費財の多様性の増加により、少子化が進むことを明らかにしました。出生率の低下の一因として、晩婚化、非婚化が挙げられることもあります。図表3と図表4は2020年の国勢調査をもとにそれぞれ日本の男性と女性の年齢別未婚率の推移を表しています。

【図表3】日本の男性の未婚率の推移
日本の男性の未婚率の推移 出所=『大都市はどうやってできるのか
【図表4】日本の女性の未婚率の推移
日本の女性の未婚率の推移 出所=『大都市はどうやってできるのか

1920年から時代を経るごとに両方の性別で25〜39歳の人々の未婚率が上がっていることが確認できます。この図は、晩婚化、非婚化が確実に進んでいることを表していますが、少子化の場合と同じようなメカニズムで経済成長によって晩婚化、非婚化が進むことも説明できます。