90年代初めまで日本がうまく関係を築けた東南アジア外交も、最近は成果を見ない。アジアは日本が先頭を飛ぶ「雁行がんこうモデル」で経済発展すると考えられていた。マレーシアのマハティール首相(当時)が81年に提唱した「ルックイースト政策」も、日本を見習って経済発展する構想だった。

しかし現在の東南アジア諸国に、雁行モデルやルックイーストを考えている人はいない。たとえば、インドネシアは、日本より韓国、中国を頼りにしている。ジョコ・ウィドド大統領は、ジャカルタから東カリマンタンへの首都移転計画で、現代自動車、サムソンなど韓国企業の誘致に積極的だし、中国も建設利権にあやかろうと熱心だ。

高速鉄道計画では、日本はジョコ政権に裏切られた。2000年代に前政権とジャカルタ-スラバヤ間730kmを通す計画を進め、フィジビリティ・スタディ(実行可能性調査)も実施していた。第1期としてジャカルタ-バンドン間150kmに着工する計画だった。しかし、ジョコ政権になっていったん中止され、中国が(ほぼ無料で)入札に参加して中国の受注が決まった。

大選挙区でないと出てこない

以上のように日本が外交の軸を失った原因の1つは、96年に導入された小選挙区制だ。たとえば、横浜市は衆議院議員の選挙区が8つあり、横浜市長選の選挙区の8分の1と、非常に小さい区割りだ。だから、有権者は“おらが村”に、候補者が何をもたらすかに関心が高い。外交政策を訴えても、選挙の得票につながらないのだ。

とはいえ私には、かつての中選挙区制でも狭いと感じる。外交、財政などの国家レベルの問題に取り組む政治家は、「道州制」構想レベルの大選挙区でないと出てこないだろう。

そもそも外国との関係づくりには、時間をかける必要がある。私はマハティール首相(当時)のアドバイザーを18年務めたほか、中国、台湾、シンガポール、フィリピンでもアドバイザーを務めた。台湾や韓国にはマッキンゼーの事務所を開設し、200回以上は訪れている。時間と労力をかけないと本当の情報は得られないし、現地に多くの友人がいないとその肌感覚はわからない。「アメリカ追従は良くない、危険だ」ということがわかったとして、近隣外交に切り替えるにも、今の日本に、そういった経験と感覚を磨いた政治家や役人が乏しいことを嘆かざるをえない。

(構成=伊田欣司 写真=AP/アフロ)
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