情報収集における世代間のコミュニケーションに断絶
こうした情報収集における年齢ギャップによって世代間のコミュニケーションに断絶が生まれている可能性がある。
ワクチンデマの拡散に関してはSNSの影響がクローズアップされているが、速報性をもち、情報拡散の速いSNSの利用時間の長い若い世代では、誤情報やデマも広がりやすくなっているのは確かだと言えよう。
また、ネット上で発言する専門家の中にも誤情報に近い情報発信をする者が加わっていたり、時には、専門家の顔をしてデマを広げ、自分のサイトや書籍などの収入増を狙う不届きなやからもいたりするので、ますます話がややこしくなっている。
一方、高齢世代が依拠するテレビや新聞など既成メディアも情報の信頼性には高い評価が与えられている一方で、そうしたメディアの記者やディレクターの頭の中には一定のストーリーがあって、それに沿った取材や報道しか行わない傾向もある。
これが嫌われて若い世代からマスゴミなどと悪口を言われ、信用が得られない原因ともなっている。投票数が多い高齢層の依拠する既成メディアの社会的影響力が過当に高いと感じ、フラストレーションを抱く若者も多かろう。
健康に関する誤情報やデマに対して、正しい情報がなかなか得られないとき、最後に頼りになるのは政府や自治体などの行政であるはずであるが、図表6において、正しい情報の確認手段として挙げられている割合はそう高くない。
そもそも政府に対する信頼度が低いと、政府が新型コロナ感染症やワクチンの情報を出してもなかなか信頼されないという事情があろう。選挙で選ばれた政治家が支配する民主主義国の政府は、政治家が信頼されていない分、政府の発表も信頼されない傾向があり、かえって中国のような権威主義的な政府の方がこうした面で国民から信頼されている(信頼するしかない?)のは皮肉な状況である。
また、行政における体質的な不親切も影響している。新型コロナやワクチン接種で頼りになるはずの厚生労働省のウェブサイトは、情報がそこに置いてあるだけで「見せる」仕様になっていない。正確な情報は提供しようとするが、人々の不安を解消するような「分かりやすい情報」は載っていない。誤解を招いて責任を取らされないように行動する官僚独特の行動パターンが原因である。
政治的な責任まで含め全責任を引き受けられるような専門性を有するトップが率いる司令塔的な感染症対策の専門機関を作り、国民の中に生れがちな誤情報やデマを発生する度に打ち消し、国民の不安を解消できるような「分かりやすい」情報提供を行うことができれば事態は改善されたと思うが、そうはならなかった。
時代の転換点に生じた世代間の情報ギャップの解消に向けた今後の課題は大きいと言える。それぞれのメディアが相互に連携しながら改善に向けた抜本的な対策を講じることが肝要であろう。
若者が依拠するネット関連では、利用者自体が安易に不確かな情報を拡散しないような情報リテラシーを身に付ける必要があろう。学校教育での取り組みも重要である。また、SNSのアプリに「いいね」ボタンでなく、「まずいね」ボタンをつくるとか、有識者意見をその都度、表示させるとか、システムとして誤情報の拡散を抑制できるような仕組みを備えるよう運営者が努める必要があろう。
中高年が依拠するテレビ、新聞といった既成メディアでは、紋切り型のストーリーに沿った報道ばかりせずに、調査報道を増やすなどのクオリティ向上に努め信頼を回復しなければならない。そのためには大手紙や地方紙の大同合併やネット企業との合併といった抜本的な財政基盤強化が必要かもしれない。