ワクチンデマの事例:メディア影響力の世代間差の克服
最後に、単に利用時間、視聴時間の逆転というだけでなく、ネットとテレビ・新聞の影響力の逆転を表しているデータを次に見てみよう。
一般に、デマは、①多くの人と関係するテーマ、②専門性が高く不安の解消が容易でない、③メリットよりデメリットが目立つ。こうした場合に広がる可能性が高まる。新型コロナウイルスの流行は、まさにこうした条件に合致しており、WHOテドロス事務局長は「われわれは感染症だけではなく、“インフォデミック“とも戦っている」と述べた。
ワクチン接種についても同様であり、副反応のデメリットがはっきりしている一方で、感染しなかったとか重症化しなかったとかいうのが、ワクチンを打ったからなのかどうかは個人レベルでは基本的にわからない。
そこで、「ワクチンは有害物質が入っている」「ワクチンを打つと不妊になる」といったような話が広まりやすくなってしまう。さらに、「ビル・ゲイツがワクチンによって人口減少をもくろんでいる」とか「新型コロナウイルスはそもそもワクチンを広めるための茶番だ」といった陰謀論も世界的に流布した。
このように新型コロナのワクチン接種に関しては、さまざまな誤情報やデマが飛び交った。公益財団法人「新聞通信調査会」が2021年8~9月に実施した「メディアに関する全国世論調査」によると、55.5%の人が「新型コロナワクチンに関して不確かな情報やデマと思われる情報を見聞きしたことがある」と答えた。この数字は、世代や性別でそれほど大きな差がなかった。
この世論調査は、上で引用した総務省の調査と同様、訪問留置法で行われ、サンプル数は5000人と多く信頼性も高いが、上の問に続いて、そうした「不確かな情報やデマと思われる情報を見聞きしたことがある」人に、「どのようにして正しい情報を確認したか」をきいている。図表6はその結果を世代別に示したグラフである。
利用時間だけでなく、こうした正しい情報の確認においても、若い世代ほどネット、高齢世代ほどテレビや新聞に頼っていることが分かる。これに対して、政府や自治体からの情報提供や家族や友人とのやりとりに関しては、世代に関わりなく一定の割合を占め、ただしネットやテレビ・新聞を下回る割合であるという特徴が認められる。
ただし、10代は20代よりテレビや新聞、あるいは家族や友人の割合が高く、親と同居している背景が影響していると考えられる。
なお、ネットでの情報確認の中でも、10代~20代はもっぱらSNSでの確認割合が高いのに対して、30代~40代は専門家のネットでの発言を挙げる者が多いという違いが認められる。