若者、移民を受け入れる独自の「カルチャー」

大学と軍部の投資がスタートアップ企業の繁栄を促したことは明らかだが、シリコンバレーの文化そのものがどれほど貢献したのかは曖昧である。なにしろ「文化」を定義することは難しい。しかし、生活やビジネスのさまざまな局面に表れる、東海岸とは異なるビジネスの傾向に魅了される人々は確かにいて、彼らが集まって独特のカルチャーが築かれていったのは事実である。

トム・ニコラス著、鈴木立哉訳『ベンチャーキャピタル全史』(新潮社)

アナリー・サクセニアンは次のように論じている。「シリコンバレーには、リスクを奨励し、失敗を受け入れるカルチャーがあった」。そして「新興企業の可能性を制限するような、年齢や地位、社会的立場による境界はまったくなかった」。

実践教育を重んじる大学は、温暖な気候に恵まれ、太陽の光がさんさんと輝くなだらかな丘とともに、テクノロジーに関心のある若者たちの心をつかんだ。東海岸の残酷なほど寒い冬と、堅苦しい秩序に惹かれる者は少なかった。

シリコンバレーは、技術ノウハウの最先端で、階層の少ない柔軟な組織で活躍したい人々を引きつけた。新進の起業家たちは、真新しいキャンバスの上に、東海岸で何十年もかけて積み重ねられてきた先例によって整理され尽くしたものとは異なる、自分たち独自のルールを描くことができたのだ。

開放的なカルチャーは、創造性とイノベーションの強力な推進力になり得る。

ベイエリアでは、このカルチャーのおかげで、それがたとえ移民がもたらした技術でも、浸透が阻害されるようなことはなかった。このエリアでは軍事技術との結びつきが重視されていたことは示してきたが、外国出身の発明家たちが防衛関連の職を見つけることはむずかしかった。逆説的ではあるが、だからこそ彼らが民間セクターの産業の発展に重要な役割を果たすことになったのである。

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