新卒で有力企業に入れなければ人生が決まってしまう

ハイリスクな投資によって人生の一発逆転を狙わざるを得ない人々が増えた背景には、複数の要因が影響している。特に、経済格差が拡大していることは大きい。“世界不平等データベース”によると、2021年の時点で韓国の所得上位1%の層が全体に占めるシェアは14.7%だった。同年の韓国において所得上位10%の層が全体に占めるシェアは46.5%に達した。大学を卒業してもサムスン電子など給与水準の高い大手財閥系企業に就職できる人は限られている。

また独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査(資料シリーズNo.258 韓国の非正規労働政策の展開と課題―正社員転換を中心に―)に掲載されたグラフを見ると、2017年以降の韓国では契約終了に直面する非正規雇用者の割合が上昇した。その一方で継続雇用される非正規雇用者の割合が低下した。

韓国では新卒学生として有力な企業に就職することができない場合、自力で所得水準の向上を目指すことはかなり難しいという一つの見方が浮かび上がる。その状況下で豊かな人生を送ることを想定することは難しいだろう。そうした苦境から脱するために、投機を行って一発逆転にかけざるを得ない人が増えているようだ。

都心のマンション価格の上昇が止まらない

それに加えて、韓国では経済と政治の中心地であるソウルを中心に、不動産の価格が高騰している。特に、文前政権下の韓国では、マンションなど不動産価格の上昇がそれまで以上に勢いづいた。世界的な低金利環境、より良い就業機会などを求めた首都圏への人口集中が重なり、ソウルなどのマンション価格は上昇し続けるという“神話”が醸成されたといえる。韓国の国民銀行の集計によると、2022年8月のソウルのマンション(統計上の表記はアパート)購入価格は、前年同月比5.1%上昇した。

韓国銀行(中央銀行)がインフレ退治のための追加利上げを余儀なくされているにもかかわらず、住宅価格は高止まりしている。そのため、借り入れに頼って住む場所を手に入れなければならない人が増えている。首都近郊で思うような物件を手に入れられず、地方に移住せざるを得ない人もいる。

それに加えて、ウクライナ危機発生以降の韓国では天然ガス価格の高騰などによって電力料金など生活費の負担が増している。その結果として、韓国ではハイリスク・ハイリターンの投資を行い、人生の一発逆転を狙う個人が増えたと考えられる。