「それだけ追い込まれる人が多いのでしょう」

最近、韓国の個人投資家の中で、投機的な“一発逆転”の発想で投資を行う人が増えているという話を耳にする。中には、家族の生活に必要な資金のほとんどを、テスラなど米国の株式に投資する投資家もいるという。韓国人の友人の一人は、「それだけ韓国では追い込まれる人が多いのでしょう」という。

韓国の尹錫悦大統領=2022年8月17日、韓国・ソウル
写真=EPA/時事通信フォト
韓国の尹錫悦大統領=2022年8月17日、韓国・ソウル

そうした行動の背景には何があるのだろう。おそらく、貧富の差の拡大や不動産価格高騰による家計の債務負担の増加など複数の要因が思い当たる。それに加えて、韓国では世界最速のペースで少子化が進み人口が減少している。多くの国民にとって、将来に希望をもつことは難しくなり、先行き不安は急速に高まっているようだ。その状況下で一発逆転をかけてハイリスクな投資(投機)に踏み切ろうという人が増えているのかもしれない。

問題は、韓国の政治が、閉塞感高まる社会の状況に明確な回答を出せていないことだ。その状況が続けば、社会心理は一段と悪化し労使の対立が先鋭化するなどして経済運営に負の要素が増えるだろう。国内経済が停滞し先行の明るい展開を期待しづらいというのは、わが国にも当てはまる。韓国の個人投資家を取り巻く経済と社会の問題は、わが国にとって他山の石といえる。

上位層10%が46.5%の富を独占している

近年、韓国では株式や仮想通貨などハイリスク・ハイリターン型の投資を選好する個人が増えてきたといわれることが多い。投機色の強い取引を好む人は多いようだ。ブルームバーグによると、8月17日時点で、韓国の個人投資家は、テスラの発行済み株式の1.6%程度を保有している。株主ランキングでの順位は第7位に位置する。

昨年11月以降、連邦準備制度理事会(FRB)はインフレ退治に徹底して取り組まざるを得ない状況に追い込まれ、大幅な追加利上げが実施された。それと同時に量的引き締め(QT)も進められている。金利上昇によって期待先行で上昇したテスラ株は下落し、足許の値動きはかなり荒い。そうした状況であるにもかかわらず、韓国ではテスラ株投資が苦しい生活環境から抜け出すための有力な手段であると考える個人投資家は多いといえる。