(2)無意識下の判断を活用する

では実際、どのようにして記憶のメンテナンスを継続すればよいのでしょうか。

まず、無意識下の判断を活用することです。

先ほどの例のように、人間は無意識にいろいろなことを決定していますが、無意識だからといってそれがコントロールできないわけではありません。なにもないところから脳が勝手に決定を下しているとか、別の世界があってそこから命令をうけているといったことはないのです。

人はこれまでに身につけてきたことや習慣化されていること、記憶してきたことにもとづいて自動で判断を下しているだけです。こうした性質を利用することで、意志によって無意識の判断をコントロールできます。

ふだん意識することのない記憶として、「プライミング効果」があります。プライミング効果とは、先に受けた刺激があとに続く刺激の処理に影響することを言います。

「りんご」を思い浮かべるように言われてりんごを思い浮かべているときに、「次に紫のものを思い浮かべてください」と指示されると、ついブドウを思い浮かべてしまいます。

プライミング効果は、無意識下の判断を活用して物事に取り組むときにも、活用できます。プライミングという先行刺激が後続刺激の処理に影響を及ぼすという作用を、モチベーションの維持にも利用しようというわけです。

トイレに目標を貼るのも実は効果的

ひとつ実験を紹介します。

【エビデンス】

ある実験では、なにか課題をおこなうときに、「到達」「成功」「課題をクリアできる」といったポジティブな単語に触れることで、そのあとにおこなう課題でも集中力が持続したり、生産性が向上したりする結果が得られました。

また別の実験では、テスト10日前にポジティブな単語に触れることによって自発的に学習をする人が増えたり、自発的に学習する時間が増えたりしたこともわかっています。

このように、「ポジティブな単語に触れたかどうか」というとても小さなちがいで、そのあとにおこなう活動に対するモチベーションを知らないうちに向上させられたのです。

プライミング効果の持続時間については諸説あり、数十分程度から数日、数年間とかなり幅があります。

生活のなかでプライミングの要素を取り入れていくには、自分がやりたいこと、達成したいことを1日に数回、目にすることが効果的です。具体的にはトイレや玄関、机などに目標書いた紙を貼ったり、スマホのホーム画面上に継続して使う学習アプリをおいたり、さらにはフォルダの名前を工夫して、そこに目標を書いておくのもよいでしょう。

プライミング効果が得られる先行刺激について、文字数などを明確に示した実験はありませんが、本人にとって自然に受け入れられることが重要です。「到達」「成功」といった簡潔な言葉や、TOEICや英検であれば、TOEICという言葉や目標点数が自然と目に入るようにするとよいでしょう。

必ずしも1語である必要はありません。すぐに認識でき、「ポジティブなものだ」と自然に捉えられることが重要です。