韓国では経済成長が進み、大卒の初任給が日本を上回った。社会はどのように変化したのだろうか。道上尚史さんは「経済発展を遂げ女性の社会進出も進んでいるが、差別や格差は日本より深刻だ。大学生は『親の経済力によって人生が決まる』と嘆いている」という――。(第4回)

※本稿は、道上尚史『韓国の変化 日本の選択 外交官が見た日韓のズレ』(ちくま新書)の一部を再編集したものです。

高層ビルと韓国の国旗
写真=iStock.com/Jae Young Ju
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この40年で大きくさま変わりした韓国社会

1980年代半ばの韓国には、職のない若い男たちが昼間から路上で賭け事に興じる、よくある途上国の風景があった。スパゲティと注文して出てきたのは細いうどんだった。メロンの現物を知る人は少なく、「犬はうまいぞ、日本人は味を知らないんだな」と得意げだった。

働く女性への差別、そして障害のある人や黒人への冷たい目線は、日本の感覚からすれば驚くべきものだった。ルール無視を堂々と語り、「大丈夫。日本人は几帳面すぎていかん」と笑っていた。しかし、今の韓国はさま変わりだ。

ソウルや釜山(プサン)では、40階以上のタワーマンションが林立する。シネコン、スパ、ゴルフ練習場が入った、日本にはない巨大なデパート(百貨店)がある。コンビニもコーヒー店も東京より多い。多種類の香り高いコーヒーが詳しい説明付きで提供され、値段は日本より高い。環境問題への意識は高まったし、人気タレントがテレビでアフリカ難民への関心を熱く語っていた。女性の地位は上がり、職場での活躍がめざましい。

大卒20代後半では、女子のほうが男子より平均給与が高く、これは兵役がある男子への差別だとの不満が男子からあがっている。大卒初任給は日本より韓国のほうが高い。日本にわたって就職した韓国人の不満は、日本は物価も安いが給料も安いことだ。コロナ下では社会の「同調圧力」が日本より強かった。

かつて韓国はマスクをあまりしない国だったが、今回、電車やバスの中で老若男女ほぼ100パーセントが、マスクを着用していた。オフィスビルや食堂やパン屋に入る際の体温測定や身分証のチェックをいとう人は見たことがない。ルールにきわめて従順になった。

東京オリンピックの中継で各国を揶揄した韓国のテレビ局

近年の韓国の外国観のあやうさが外に現れたと感じたのは、昨年7月の東京オリンピック開会式を中継するMBCのテレビ放送だった。この放送が物議をかもし、国内そしていくつかの外国から抗議を受けた。

各国選手団入場にあわせその国を短く紹介するのだが、ルーマニアはドラキュラのワンシーンを、ウクライナはチョルノービリ原発事故の写真を用いた。マーシャル諸島を「米国のかつての核実験場」と紹介し、イタリアはピザの画像、ノルウェーはサーモンの画像を用いた。ウソ偽りではなくても、オリンピック開会式という世界が注目する晴れの舞台にそぐわない、各国への揶揄やゆだ、国際的な欠礼だという批判が内外から相次いだ。

CNNやニューヨークタイムズも、「MBCは侮辱的な偏見を放送した」と批判した。MBCは、「オリンピック精神を傷つける放送。言い訳できない過失」として公式謝罪した。これは、近年の韓国の外国観の危うさの縮図だと私は思う。

外国への礼儀や配慮はいらない、我々はもう弱小国でないので、そんなことに神経を使う必要はない。国内それも仲間うちでふだんおしゃべりしているそのままを外向けに言っていいのだ、というところだ。私が知るかつての韓国には、そういうひとりよがりはなかったのだが。そして、この傾向が最も強く出るのは、日本に対してだ。