「一般国民になぜ日本が重要かを説明するのは難しい」

また、日本通の幹部外交官はこう語る。

「今世紀に入り、日中2つの隣国の重要さについて、日本は中国とは比較にならないということがコンセンサスになってしまった。保守・進歩や世代を超えた共通認識だ。中国嫌いの人でもこの点は同じだ」

「実は我々外交当局も、一般国民になぜ日本が重要かを説明するのは難しい。もっといえば、よい知恵がない。安保や自由民主という基本価値。ビジネスで相互依存が強い。社会問題で日本から学ぶことは今も多いと自分は思う。だが、日韓パートナーシップ宣言を策定した90年代とちがい、国民は耳を傾けず、アピールしない。韓国では、日本が重要だということが自明でないのが現実です」

「対中外交は不愉快なことが多いし、彼らから見ても韓国は厄介な国だが、韓国を取り込む作業を分厚く仕掛けてくる。文化、語学、政治家、経済人、メディア、官僚、学生等多岐にわたる人的交流を拡充している。かつて日本が得意としたソフトパワーだ」(「サード」配備で中韓関係が悪化する以前の発言)

ひび割れた日中韓の国旗
写真=iStock.com/Barks_japan
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この2つ目は、付き合いの長い、優秀で知的な外交官だ。韓国の立場から言わんとすることはわかるが、日本が改めれば日韓がうまくいくという話では全くなく、根本的な問題は韓国が抱えていると思う。ただ、「一般国民になぜ日本が重要かを説明するのは難しい」というのは、作り話ではなく、それが韓国の現実であった。

「日本人はK-POPが好きだから、韓国全体が好き」と勘違いしている

韓国では、「日本人はK-POPや韓国ドラマが好き」だとして、「日本人は韓国全体が好き。韓国を嫌うのはごく一部。日韓の対立についても、ホンネは韓国を支持している」と飛躍する人が少なくない。日本は中韓に抜かれたのが悔しくてますます停滞を深めている、との印象を持つ人もいる。

2014年、私は大使館で文化広報公使から総括公使になり、ほとんど政治マターを扱う日々になった。その頃の話だ。日本の竹島領有主張に対し、外交部ステートメントに、(日本は)「帝国主義の亡霊」と非難する表現があった。週刊誌でなく政府の公式発表文がこのような表現を用いることに驚いた。国は違えど外交官として研鑽けんさんを重ねた先輩方から私は薫陶くんとうをうけてきたのだが、これは自分の中の古きよき韓国像が崩れる思いだった。

その後、日本の安倍総理と米国オバマ大統領が日米韓首脳会談を提案した。朴槿恵大統領の頃だ。本来の韓国なら、国益に沿う良い案としてすぐ賛成するところだが、国内で抵抗が強かった。メディアと一部世論が、「提案者に日本が入っている」ことに難色を示し、政治部門つまり青瓦台もこれに一時は引きずられた。

会談は結局は実現に至るのだが、日本の提案に乗るのがイヤという感情的反発がここまで強いのか、外交安保の得失でなく、世論の反発にそこまで影響され流されてしまうのか、保守政権でも韓国はそうなのか、とため息が出た。韓国は変わってしまったと感じた。