「北朝鮮よりも日本のほうが脅威だ」と答えた政治家

さて、私学の代表格、名門Y大学。数年前に国際政治の教授が指導する大学院生に発表させたところ、10チーム中9チームが「韓国の外交安保について、中国との連携を強化して日本に対抗すべき」との政策をよしとした。日韓強化と述べたのは1チームのみだった。日本で博士号を得たこの教授はショックを受けた。

もう1つ、3年前に大学院生グループ(うち一人は日本人)が日韓関係を議論したところ、日本政府が植民地支配を反省しお詫びをしているという基本事実を、韓国の院生は一人を除き誰も知らなかった。

日本なら、外交官や大学教授あるいは新聞記者でなくても、1990年代半ばから広く知られていることである。1998年の日韓パートナーシップ宣言にも盛り込まれ、しかも韓国は、歴史に対する日本の立場を評価している。首脳が交わした外交文書である。しかし、こういう足元をすくうような現実が韓国に少なくないのだ。

日韓両国で特派員経験のある、欧米プレスが言う。日本が安全保障法制を整備するのは、当然かつ望ましいこと。韓半島の安保態勢強化につながり、韓国としても喜ばしいはず。でも、以前、民主党党首(当時)が公然と「北朝鮮のミサイルより、集団的自衛権の行使を可能とする日本のほうが脅威だ」と述べた。およそ的外れだけど、これが韓国の現実だ、と。

先述のY大学のような、「日本の反省・お詫びを知らなかった」というケースが多い。

旗付き3Dマップ上の韓国と北朝鮮と日本
写真=iStock.com/Harvepino
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講演での質問の多くは「なぜ日本は謝らずにごまかすのか」というもの

私はソウルの日本大使館書記官時代も公使時代も、大学でよく講演をしたが、しばしば聞かれた。「なぜ日本は、歴史の事実を認めず、謝らず、ごまかすばかりなのか? 韓国民の心の痛みから目をそむけるのか?」という方向の質問が多いのだ。

私は講演で、歴史についての質問を避けるのでなく、むしろ積極的に話したかった。質問が出ない場合に備え、はじめから歴史問題の基本ファクトを伝え、質問がくるのを促した。ある時女子学生が手をあげた。

「高校時代、私は大使館前の慰安婦デモに参加した。日本謝れと皆で叫んだ。あなたの今日の説明は、デモ主催者の説明と全く違うものである。どちらが本当なのか」という。私は「意見の違いはあっても、ファクトは1つだ。日本は過去の歴史を直視し、反省とお詫びを明確に述べた。韓国側はこのファクトを直視してほしい。日本大使館のホームページには韓国語や英語で資料がある。ぜひあなた自身が、どちらが本当かを判断してください」と答えた。

韓国にいると、巨大な認識のずれを日々感じる。一歩一歩作業していくしかない。そしてこれは明らかに、外務省や政府だけでできることではなく、オールジャパンの――メディア、研究者、経済界、NGOなどを含めた――取り組みなのだ。韓国側の問題はもとよりだが、この種の発信・コミュニケーションを、日本側も怠ってきたと私は思う。