「ガラパゴス人材」になってはいけない

日本の会社員の多くは「業」をもたないのではないか、という冨山さんの指摘は実に当たっていると思う。耳の痛い人は少なくないだろう。

真におのれの能力で対価を得ることができれば、会社にしがみつかなくても生きていける。

「業」をもたぬがゆえに、帰属している会社組織でしか生きていけないような「ガラパゴス人材」になってはいけない。組織に己を最適化させるという処世術は、もう通用しないのだ。

ひょっとしたら、今いる会社の幹部や直属の上司が、その組織の論理、暗黙のルールをふりかざしている場面に多々遭遇している人も多いかもしれない。

なんのことはない、彼らは、硬直化した組織で定年まで逃げ切るべく「保身」を図っているだけなのだ。彼らのやること、なすことを「ふーん、そういうものか」と唯々諾々と受け入れているうちに、今いる組織のロジックでしか、ものを考えられなくなってしまう。

それこそ「ガラパゴス人材」の始まりだ。

そもそも、なぜ日本企業で出世する人たちの多くが、保身しか頭にない輩と化してしまっているのか。

野心的な人ならば、まず入った企業で実力をつけて成果を積み上げ、たとえば30代くらいで外資にヘッドハントされて年俸1億円くらいで5年ほど働き、その後は好きなことをして暮らしていく――といった人生設計になる。実際、アメリカでは、そういう考え方で仕事人生を切り開いている人は多い。

仮想画面のコンセプト
写真=iStock.com/anyaberkut
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ところが日本では、多くの会社員が、そこそこの幹部に出世してもせいぜい年収1200万円くらいで、あくまでも組織にかじりつこうとする。

自分で生きていく手段をどれだけ用意できるか

冨山さんの言葉を借りれば、己の「業」を培うことなく、いわば、所属する組織のなかでの処世術だけには長けている「プロ会社員」として定年まで居座ろうとする。それはなぜなのか。

前にも述べたとおり、日本には退職金という奇妙な制度がある。

安月給を受け入れる代わりに、40年ほども勤め上げれば、それまで低く抑えられていた分をまとめて払ってもらえる――となれば、なんとしてもその組織で勤め上げようと考えても不思議ではない。

そして定年まで勤め上げるには、その組織に己を最適化するのが一番だ。かくして、判で押したようなガラパゴス人材が量産されてきた。

成毛眞、冨山和彦『2025年日本経済再生戦略』(SBクリエイティブ)
成毛眞、冨山和彦『2025年日本経済再生戦略』(SBクリエイティブ)

もちろん、それが日本の経済成長を支える有効策として機能していた時代はあった。日本人全体が「経済先進国の仲間入り」という同じゴールを目指して、同じようにがんばっていた時代だ。

だが今は違う。経済は縮小し続けており、あと10年もしたら老後の見通しが立たない、なんて人はザラにいるという状況になっているはずだ。零細・中小企業の会社員だけではない。財閥系の大企業に勤めていても、である。

定年まで、とにかく大過なく過ごしたほうが安全だの無難だのと考えているのなら、今すぐ認識を改めたほうがいい。組織にしがみついて保身に走っている場合ではないのだ。

これからの人生の明暗を分けるのは、「どんな企業に勤めているのか」ではない。企業に属することの「恩恵」とされてきた制度に頼ることなく、「自分で生きていく手段をどれだけ用意できるか」なのだ。

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