人を選別しないで助ける
【宮内】困っている人を見たら、「手を差し伸べたい」と思うのが、人間のあるべき姿だと思いますが。少なくとも日本人としては、そういう感情が自然に湧いてくる人が多数派であってほしい。
【井上】私もそこは変えてほしいと思っています。「この人は努力しているから助けるべきだ」「この人は努力していないから助けなくていい」などと、いちいち人を選別しないで助けるべきなんです。働ける人と働かない人の区別なんて原理的に無理ですよ。そういう意味からも、私はベーシックインカム(※注3)が必要だと考えています。
【宮内】私が年齢とともに、運が悪かった人に対して寄り添う気持ちを強く持つようになったのは、日本人の持っている宗教観のようなものが影響しているのかなと感じます。日本の気候、風土や仏教文化の影響もあるかもしれません。
【井上】宮内さんの周りの方々も、同じようにお変わりになってきたのでしょうか。
【宮内】年配者もさまざまで、年齢とともに自分のことしか考えなくなる人も多いです。逆に、「もののあわれ」という感覚を持つ人も多くいると思います。欧米にはそのような感覚は少ないかもしれませんが。
【井上】欧米には欧米で、キリスト教的な博愛精神があるように思います。
【宮内】たしかにキリスト教は、現世の哀れな人に一生懸命手を差し伸べていますね。ただ、いずれにしても、日本人の精神の奥深くには独特な宗教観があるような気がしています。
※注1)CAF(2021)「CAF WORLD GIVING INDEX 2021 A global pandemic special report June 2021」
※注2)『実力も運のうち 能力主義は正義か?』(早川書房、2021)。政治哲学が専門のハーバード大学教授 マイケル・サンデルの著書。能力主義が行き過ぎたアメリカ社会を背景に、勝者と敗者の分断がトランプ政権を誕生させたと分析。また、一見、平等にも見える受験戦争のような競争システムが、今日では機能不全に陥っていると指摘し、教育機会の拡大へ向け、現状の入試方法の見直しを提案している。
※注3)ベーシックインカム……政府が国民全員に対し、収入の多寡にかかわらず、無条件に一定額を給付する制度のこと。最低限の生活の保障という目的だけではなく、給付漏れを防ぐなどのセーフティーネット強化の側面や、複雑化した社会保障制度を簡素化できるといったメリットも併せ持つ。