貧しい人がいくら頑張っても上に行けない世の中

【井上】今はアメリカでも「アメリカン・ドリーム」という夢が崩れてきて、「貧しい人が実力で這い上がる」というストーリーが通用しなくなっていますね。私は世の中で、個人として運がいいか悪いかの以前に、貧しい人がいくらがんばっても上に行くことが難しいというような、構造的な壁ができてしまっていると感じます。

アメリカの統計を見ると1970年代から高卒と大卒の所得格差が拡大するようになり、今は大卒と大学院卒の所得格差も広がっています。

最近その傾向に拍車がかかっていますが、それにはやはり社会の情報化が関わっています。GAFAMなど情報産業の先端企業では、特別に優秀な人材を選んで集めているので、入社しようとしても修士号とか博士号を持っていないと難しい。これは、大手製造業がそれほど学歴のない労働者を多く雇ってきたのに比べると大きな違いです。

日本でもアメリカでも、親が子どもの頃からお金をかけて教育を受けさせてやらないとなかなか良い大学には入れないし、まして大学院まで進むとなると多額の教育費用がかかるので、貧しい家庭からでは難しいという現実があります。

卒業式で帽子を投げる大学生
写真=iStock.com/somethingway
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勉強ができるだけでなく、運動神経もよくイケメンな東大生

【井上】サンデルさんは「ハーバード大学の学生の3分の2は、所得規模で上位5分の1にあたる家庭の出身」と指摘していますが、日本でも「東大生の親は高所得者が多い」という調査結果があります。

昔の東大生は分厚いメガネをかけてファッションにもあまり気を使わない、今のネットスラングでいう「チー牛」、これはチーズ牛丼を食べていそうな根暗なやつという意味ですが、そんなイメージがあったと思います。ところが今の東大生は勉強ができるばかりか、運動神経も良くて身長が高くてイケメンでピアノも弾けます、という人がいたりする。「モデルさんですか」と言いたくなるような東大生が少なくない。親もお金持ちで、東大生の家庭は世帯年収が1000万以上の家が多いんです。「お前ら容赦しないんだな。勉強できるんだから、他のことではもっと手を抜けよ」と言いたい(笑)。

【宮内】お坊ちゃまというイメージのある慶應より、東大のほうが家庭の所得が上のようですね。

しかし、アメリカのハーバード大学はもっと生まれ育った環境がモノをいうようで、“秀才が行く学校”というイメージがあるけれども、実際は親がハーバード卒で相応に寄付をしていれば、その子どもを入れてくれるそうです。こうなるとまさに親のおかげです。それを考えると、日本の東大は、試験で入学者を選んでいますから、まだ平等感があります。