努力をしない人を税金で救うべきなのか。オリックス シニア・チェアマンの宮内義彦さんは「自分が成功できたのは運がよかったからだと考えられれば、運が悪かった人を助けようと思えるはずだ」という。駒澤大学経済学部准教授の井上智洋さんとの対談をお届けしよう――。

※本稿は、宮内義彦・井上智洋『2050年「人新世」の未来論争』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

2つの分離されたゾーンに立つ群衆
写真=iStock.com/Orbon Alija
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自己責任論が強い日本社会

【井上】これまでの経験から痛感しているのは、日本では国が分配を取り仕切ることに難しい面があるということです。「貧しい人を国が支援するべきだ」というと、「そんなことはすべきではない」「貧しいのは自己責任だ」という反論が本当に多いんです。ある調査によると、日本ではそうした意見の人が40%にもなるようです。これは主要国では最高の割合で、アメリカより高いんです。

【宮内】ほう、アメリカより高いのですか。

貧しい人にもお金持ちにも偏見をもつ日本人

【井上】アメリカも世界的に見ると自己責任論が強い国なのですが、日本はそれ以上です。たとえば、イギリスの慈善団体が各国でのアンケート調査結果に基づいて発表している「World Giving Index」は、「その国の人たちが寄付や人助けにどれくらい積極的か」ということを表した世界的に有名なランキングなのですが、最新の2021年版では、日本は調査対象の114カ国中、最下位の114位となっています(※注1)

駒澤大学准教授 井上智洋さん
駒澤大学准教授 井上智洋さん(撮影=小林久井)

また、さまざまな調査結果を見ると、日本は「貧しい人を助けないでいい」という人が多い一方で、「お金持ちを許せない」という人も多い。どちらも気に食わないんです。どうも、まともに働いてふつうに生活している人が一番偉くて、貧しい人に対しては「努力が足りない」と見ているし、お金持ちは「どうせ悪いことをしている」と見ているようです。

自分と立場の違う人への偏見が強い。それはアメリカに比べても激しくて、たとえばアメリカでは伝統的にお金持ちは憧れの存在で、事業に成功して富を築いた人は尊敬されますが、日本はそうではありません。ホームレスや生活保護を受けている人たちへの風当たりも、日本は非常に強いです。