怠け者でも救うべきか

【宮内】まったくそのとおりです。成功するかしないかは、運とのめぐり合わせですよ。

【井上】ですよね。私はギャンブルが嫌いで、「自分がギャンブル好きでないことは運がよかった」と思っていますが、ギャンブル好きな人はかわいそうです。お酒もタバコもギャンブルも、これまでは「自分の意志でコントロールできるもの」と考えられてきました。ギャンブルをやめられないのは“意志が弱い”ということで、自己責任とみなされていたわけです。

しかし、最近は「ギャンブル依存症」という言葉があるように、アルコール依存症と同様に「病気のようなもので、本人が希望すれば治療の対象となるハンディキャップ」と考えられるようになってきました。つまりギャンブル依存症になってしまったことも、運が悪かったということです。しかも、環境要因よりも遺伝的要因がかなり強いそうです。ギャンブル依存症から自分で抜け出るのは相当困難であり、支援の仕組みが必要です。麻薬依存症の人についても、必要なのは刑罰よりも支援だと思っています。

人がホームレスになる理由はさまざまでしょうが、アルコール依存症やギャンブル依存症が原因ということもあるでしょう。それを「意志が弱いから」「やめる努力をしなかったから」と見る人もいますが、私は「運が悪かった人なのだから、救済すべきだ」と思います。

【宮内】「なぜこの人はホームレスになったのだろう」と考えると、きっと失敗の歴史のせいなのだろうと思うんです。それを全て「自分の責任」と言って切り捨てるより「何かできることはないか」と思う気持ちを持ちたいものですね。

【井上】日本では「かわいそうな人を救うべきかどうか」という問いを立てたとき、「その人が努力しているのかどうか」が判断基準になっている面があります。

以前にお話ししたDaiGoさんですが、自身の発言が炎上した後で2回ほど謝罪動画を流しています。最初の謝罪では「ホームレスの人にも努力して這い上がろうとしている人もいるということを見落としていた」という趣旨の発言をし謝ったんですね。すると今度は「努力していない人は助けなくていいのか」と叩かれました。

ネット上では彼を擁護する声は目立ちませんでしたが、私の感覚では日本人の6、7割の人が「努力しない人間は助けなくていい」と思っていると感じます。その意味ではDaiGoさんだけ叩かれるのはフェアではないでしょうね。そもそも、どんな人に対してもですが、むやみやたらと大勢で吊るし上げるのはおぞましいと思います。大勢で一人を叩くのは卑怯者のやることです。

私は逆に「たとえ怠け者であっても救済すべきだ」と発言していて、それはそれで、ネットでよく叩かれます。こういったことで叩かれるのを、私は屁とも思っていませんが(笑)。このような考えは日本では少数派で、ラディカルなんです。「ホームレスになるのは努力が足りない人間。そういう人は救済すべきではない」と考えている人が多数派です。