メルセデスが70年前に実用化した技術に環境性能をプラス
ちなみにe:HEVの前身はミディアムセダン「アコード」(2013年)に搭載された「i-MMD」。走行用/発電用の2つのモーターを重ね合わせ、そこにエンジン直結クラッチを設けた仕組みはi-MMDで培われた技術だ。そして2019年に登場したコンパクトカー「フィットe:HEV」の登場以降、i-MMD搭載車は順次e:HEVへと名称が改められた。
今回、シビックe:HEVが搭載するシステムはアコード(e:HEV)のシステムをベースに、車両キャラクターや搭載エンジンの違いから最適化が施された。技術的な注目点は搭載エンジンを新規開発したことだ。アコードが搭載するe:HEVはシビックと同じ排気量(2.0L)だがシリンダー内にガソリンと空気の混合気を噴く一般的なポート噴射式を採用する。対してシビックe:HEVではシリンダー内に高圧(35Mpa)でガソリンのみを噴く直噴式に変更したのだ。
直噴化の理由は、優れた燃費数値とクリーンな排出ガスの両立にある。もっとも直噴エンジンは1954年にメルセデス・ベンツが300SLで世界で初めて実用化するなど70年近い歴史があり、今では一般的な燃焼方式だが、未だに燃費性能と環境性能の高度な両立は難しい。そこに楽しい走りといった要件が加わればなおさらだ。
新開発のエンジンが電動化車両の効率をアップ
シビックe:HEVの2.0L直噴では、ガソリンを高圧で微粒化し必要量を4回に分けて噴くことで、エンジンの効率を示す指標のひとつ「熱効率」を最大41%を達成しながら(≒燃費性能の向上)、クリーンな排出ガスを実現した(≒環境性能の向上)。
新開発エンジンを巡っては、温室効果ガス削減を目的に電動化車両の販売を促進するなか、「時代に逆行するのではないか」との評価もあがったが、最新の直噴化技術や高度なエンジンコントロールユニットを採用することで、電動化車両のひとつであるHVの基本性能をグッと高めることができる。つまり新開発エンジンは電動化車両の高効率化にも直結する。
さらに開発陣によれば、2025年ともいわれるユーロ7(EUの新たな排ガス規制)相当の厳しい基準にも対応可能で、シビックへの搭載予定はないがe:HEVのない2.0L直噴エンジンだけでも優れた走行性能との両立が可能になるという。
エンジンとして優れた基本性能と汎用性を持たせることで内燃機関の存在意義はしっかり残るし、そこに優れたハイブリッドシステムを組み合わせれば温室効果ガスの削減効果はグッと高まる。ここに内燃機関を新規開発したホンダの真意がうかがえる。
走行時のCO2だけでなく生産から廃棄までの排出量で考える
確かに、車両の電動化は世界的な潮流だ。「自動車業界は100年に一度の大変革期を迎えた」と声高に発信している国や自動車メーカーは少なくない。しかし筆者は“100年に一度!”と連呼するだけでは、表面上の変革にしかつながらないと考える。
十年一昔だから、その10倍の100年は1世紀でキリがいい。そこに自動車市場における新たな主導権争いを重ね合わせれば、「脱ガソリンでEV化こそ正」とするドンデン返し的な流れは不可欠な要素だ。とすれば100年に一度の掛け声はもっともらしく聞こえてくる。
現在、のろしが上がる車両の電動化は、温室効果ガスの削減が目指すべき着地点。削減すべきガスのひとつCO2はすぐさま排出をゼロにできないが、走行時の排出量削減(≒燃費数値の向上)に加えて、生産から廃棄までの排出量も削減すれば着地点へと早期に近づく。一足飛びにはいかないものの、段階を追っていけば理想に近づける。それは内燃機関もしかりだから、知恵を絞った新開発エンジンという手段も立派な選択肢になる。
技術昇華の言葉通り、積み重ねてこそ技術は効率が高められる。内燃機関の車両が誕生して136年が経過した。また、進化の過程では新たな枝や幹となる別の技術も誕生する。量産型のハイブリッドカーが誕生して25年が経過した。