約6万社の下請け企業を抱えるトヨタには導入できない

日本の経済を支えるトヨタはクルマの約3万点の部品を、約6万社の下請け企業から調達している。だが、生産方法が変わったからといって、トヨタが彼らの仕事を簡単に切るわけにはいかない。

つまり、もしもトヨタがギガプレスを導入したら、長年にわたり関連パーツを納入していた数々の下請け企業が経営危機に直面するだけでなく、トヨタが支えてきた日本の自動車の産業構造そのものを揺るがしてしまう危険性さえある。

トヨタ
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数々の困難を乗り越えて完成したギガプレス

テスラSUVの「モデルY」のベース車両である「モデル3」のリア部は、約100個の部品を溶接や接合で複雑に組み上げていたが、イーロンはそれが気に入らなかった。「もっとシンプルにならないか」。そこで、1つの作業で作り上げるギガプレスの構想が浮かんだのだった。

さっそくイーロンたちは大手の鋳造機メーカー6社を選び出し、アンダーボディの一体鋳造のアイデアを持ち込んで、可能性を打診した。ところが、6社中5社から即座に「無理だ」と回答された。

イタリアのIDRA社だけがかろうじて前向きな姿勢を示してくれた。それでも「たぶん」という程度の頼りない返事でしかなかったが、失敗を恐れないイーロンにとってそれは「できる」と同じだった。

しかし、アンダーボディの一体鋳造は簡単にはいかなかった。

例えば、アルミ合金が冷める段階で熱変形が起こり、設計寸法どおりにできなかった。製造条件をいろいろ振ってはトライアル・アンド・エラーを繰り返していった。言ってみればそれはモデルY側の設計領域で譲れる部分と、ギガプレス側の鋳造工程でチャレンジする部分の交差点を見つけ出す作業だった。

さらに、従来のリア部アンダーボディをそのままの形状でアルミ合金の鋳造品に置き換えただけでは、車両が衝突した時の衝撃強度が十分ではない。そこで、テスラは「変形制御ゾーン」と呼ぶ、一体鋳造部が段階的に衝撃を吸収していく独自設計を生み出した。これについては、「一体型エネルギー吸収鋳物」という名称でテスラは特許を出願していた。

結局、テスラがIDRA社と協力してギガプレスの実用化を進めてものにするまでには、1年以上の時間を費やした。

現在テスラは新型車「サイバートラック」にもギガプレスを使う考えで、それは型締力が9000トンとさらに強力な鋳造機が必要となる。