執行猶予期間中に逮捕されたことがきっかけで治療を受けることに

ともあれ、何度か警察に連れて行かれるようなこともありつつ、何とか穏便に済ませてもらい、周囲には知られることなくどうにかやっていたのですが、不本意ながら学業を終えて社会に出ることとなり、自分の人生が思うに任せなくなってきたころから万引きがひどくなった気がします。

万引きを続けながらも一方には「もうやめたい、こんなことを続けていたくない」という気持ちはあるのに、自分ではどうにもやめることができないのです。盗む量と頻度が増すに従って取り締まる側の対応も厳しくなり、謝れば帰してもらえる、というわけにいかなくなっていきました。

一度は起訴猶予になったものの次は略式命令で罰金刑に、それも結局歯止めにならず、次は起訴されて裁判となり、懲役1年執行猶予3年の判決を受けたのですが、その猶予期間中に再度万引きで逮捕されました。この事件をきっかけに担当弁護士の尽力で赤城高原ホスピタルへの入院がかない、ようやく専門的な治療を受けることができるようになりました。

日本警察
写真=iStock.com/Marco_Piunti
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入院治療と並行して裁判も進行していったのですが、入院から約4カ月を経て迎えた判決では、すでに治療に入っていることとその治療に一定の効果が認められることをんでという温情ある判断のもと、再度の執行猶予が認められました。6カ月の入院加療を経て退院し、現在まで盗まない生活を続けています。

「盗れそうだ」と思うと盗るようになってしまった

自分の行動がいかにも病的だったと思われるのは、例えば次のようなところです。初めは「欲しい」と思ったものを盗っていたはずなのに、いつの頃からか「盗れそうだ」と思うと盗るようになっていました。

別に欲しかったわけでもないのにたまたま店で目に入り、周囲に人目がないなど「盗れそう」な状況だったりすると、「この(盗れそうな)状況で盗らないのは損なんじゃないか」というような、何とも倒錯したおかしな心持ちになり、欲しくもなかったものを盗んで持ち帰ってくるのです。

そういうものは、欲しかったわけでもないので、興味を失ってその辺に放り出してあるのですが、翌日など、いくらか正気に戻ってからそれが目に入ると、自分でもあまりの異常さに慄然りつぜんとする、ということがしばしばでした。毎日同じ鞄を持って店に行き、その鞄が口のところまでパンパンになるまで隙間なく商品を詰め込み、てっぺんのファスナーを苦労しながら閉じてようやく「作業完了」という気になっていた時期があります。

そうすると、鞄にほんの少しでも空間が残っている間は落ち着かず、「この空いたスペースにちょうど収まる大きさの物はないか」という目で売り場を見回し、手ごろなサイズと形状の商品が見つかると、それが欲しいかどうかということとは一切関係なく、空いていた隙間に押し込んでファスナーを閉じ、それでようやく安心する、という具合でした。