挽回策は続く。2009年後半から「Oh Yes We Did」というキャンペーンを打ち出し、SNSなどで顧客の意見を取り入れ、創業50年守られ続けてきたレシピを作り変えた。例えば、「ケチャップのようだ」と酷評されていたソースを改良。ガーリック、バジルやオレガノ、唐辛子などの分量も見直した。SNSでその過程を公開し、「ドミノ=マズい」のイメージの刷新を図った。

2010年には「“Show Us Your Pizza”contest」という参加型ソーシャルビデオ戦略を実行した。専用のウェブサイトを立ち上げ、ドミノ・ピザを注文した顧客がドミノ・ピザに対する意見や感想を語ってもらうキャンペーンだ。こうした顧客との接点を持ち続け、不満も批評と絶えず向き合う姿勢は評価を得た。その結果、売り上げは徐々に回復した。

デジタルでの失敗をデジタルで返す

ドミノ・ピザのDX戦略の最大の特長は、客が携帯電話やパソコンなどのデジタルデバイスで、簡単に素早く注文できる環境を整備することにある。

従来は、電話注文が圧倒的多数だったが、「1回あたりの注文金額は限られているため、注文頻度を増やすことが大幅な売り上げアップにつながる」という考えに基づいて、ドミノ・ピザはネットでスマートに注文の仕組みをいち早く整える。いわゆる顧客接点のデジタル化だ。

2007年、ドミノ・ピザはオンラインとモバイル注文を導入した。2008年には「Domino's Tracker」を発表した。これは客がピザの注文から焼き上がり、配達準備に至るまでの進捗をオンラインで追跡できる業界初のシステムだった。注文の遅れでストレスを抱える客も多く、このシステムが注文体験の向上に大いに貢献することになった。

レストランで巨大なピザを切り分けようとしている
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業務効率化にとどまらない変革

2010年には最高デジタル責任者を置き、ドミノ・ピザは「テック企業」へのシフトを加速させていった。2013年には、客がお気に入りの注文情報を5クリック(約30秒)で保存できる「ピザプロファイル」を導入。翌年、アプリに音声注文システムを取り入れ、Siriの開発者と協力して「DOM」というピザ注文ロボットを開発した。

このような経過を経て2015年から始まったのが「AnyWare」プログラムだ。客があらゆるチャネル(Twitterや携帯電話のテキストメッセージ、Facebook Messenger、Slackなど)で、素早くピザの注文ができるデジタルプラットフォームを開発した。

顧客はあらかじめアカウントを作成し、注文するピザの種類・支払い方法・届け先を設定しておくと、簡単な操作ですぐにピザの注文が完了できる。例えばメッセージアプリでピザの絵文字を送信して注文することも可能だ(10秒で注文完了)。

特にアプリを開いて10秒待つだけでお気に入り登録したピザの注文が完了するアプリ「Zero Click」はアメリカで高い注目を集めた。