欠勤した翌日、派遣会社の人間がやってきて…

体調不良で欠勤した翌日に仕事に戻ると、金縁の眼鏡をかけた落ちつきのないトランスラインの社員が私を探しにやってきた。その男はクリップボードをわきに挟んだまま、長い通路を一つひとつのぞき込み、私のほうに近づいてきた。派遣会社の用心棒(倉庫内を歩きまわってミスや“非行”について従業員に知らせるのが彼の仕事)としては、驚くほど押しの弱い性格だった。

彼は怯えた服従的な犬のような眼でこちらを見やり、違反について警告した。ほかの何人かのマネージャーたちとはちがい、嫌々仕事をしているのは明らかだった。彼はどもりながら言葉を濁しつつ、書類の言葉を読み上げた。が、その気の小ささによって、すべての警告は薄っぺらにしか聞こえなかった。他者に対してなんらかの権力を振るう仕事よりも、図書館員にでもなったほうがよさそうだった。

「アマゾンでは、そういうルールになっているんで」

ジェームズ・ブラッドワース、濱野大道訳『アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した 潜入・最低賃金労働の現場』(光文社未来ライブラリー)
ジェームズ・ブラッドワース『アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した 潜入・最低賃金労働の現場』(光文社未来ライブラリー)

それでも彼は、前日の私の欠勤に対してポイントが与えられることをなんとか説明しおえた。それが罰であると明言こそしなかったものの、事実上の罰であることはまちがいなかった。男がだらだらとしゃべりつづけるあいだ、頭に怒りが込み上げてきたが、なんとか言葉をみ込んだ。

しかしながら、体調を崩したという理由だけでこのように罰を与えるのは合法なのかと訊かずにはいられなかった。それも、正しい手順に則ってシフトが始まる1時間前までに電話連絡をしたというのに。彼の答えは、教師が5歳児の質問に与えるのと同じものだった。

「アマゾンでは、そういうルールになっているんで(※4)」と答える彼の眼には怒りではなく悲しみが浮かんでおり、それが状況をさらにやっかいにした。「おれがそう決めたからだよ」とでも言われたほうがずっとマシだった。

※4 トランスライン社員の発言(2016年4月8日)

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