正社員登用を夢見た友人に降りかかった悲劇

クレアのある友人は、9カ月の契約期間の終わりに近づくにつれ、ブルーバッジ獲得への期待を膨らませていった。そのために、彼は身を粉にして働いた。本から台所用品まで、何十万もの商品をアマゾンの顧客のために棚から取り出した。ピッキングの目標基準をつねに上まわり、いつも時間どおりに出勤した。そしてなにより重要なことに、仕事のほぼすべての側面を支配する無数の細かいルールをなんとか破らずに切り抜けた。

にもかかわらず、この勇ましい新たな経済――病は許しがたい罪だとみなされるダーウィン的弱肉強食の世界――は、唾を吐き捨てるように彼を解雇した。彼が犯した罪は、“生意気にも”風邪を引くということだった。彼はトランスラインの規則にしたがい、始業の1時間前に会社に電話し、マネージャーに風邪を引いたことを知らせた。しかし、そんなことにはなんの意味もなく、派遣会社にクビを言い渡されたのだった。

これはもはや「人間の否定」である

アマゾンで働き出して2週目、私は体調を崩して1日欠勤してしまった。病気になるということはここでは罰すべき罪なので、私には“ポイント”が与えられた。脂っこいジャンクフードばかりを食べて1日まさかの10時間半労働を続ければ、健康自慢の労働者でも病気になってしまうにちがいない。

病気で休むと1日分の給料を失った。すると生活の貧しさに拍車がかかり、さらに体調は悪くなった。アマゾンがそんなことを気に留めている様子はなかった。結局のところ、彼らがこの残酷なシステムを開発したのだ――いかなる種類の病気であれ、家で寝ていた者は罰を受ける。

アマゾンのほかの多くのルールと同じように、病気に関するルールもまた、仕事のあらゆる側面において従業員はズルしようとするという暗黙の前提の上に成り立っていた。すべての病気は、「前夜に町で飲んだくれて二日酔いになった怠け者」と同義だった。どんな状況であれ、“ほんとうに病気にかかった”わけではなく、ただ仕事をサボりたいだけだと判断された。

ベッドで寝ている人に対してナイトスタンドでの薬、医療温度計、水のガラス
写真=iStock.com/Christian Horz
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「病気は自分で治さなくてはいけないということです」

そのため、充分な時間の余裕をもって休むことを派遣会社に伝えたとしても、罰は免れなかった。お知らせいただきありがとう、ではポイントを加算しておきます。事前の電話連絡を怠った場合には、(当然といえば当然ながら)3ポイントが加算された。連絡したうえで1週間病気で休むと5点が溜まり、クビの一歩手前の状態となる。似たように、もし仕事に1分遅れると1ポイントが加えられるだけでなく、15分の時間給に相当する額を失う可能性があった。

全体として、従業員に対する思いやりはどこにも見当たらなかった。「私たちはあなた方をここで必要としています。とにかく、病気は自分で治さなくてはいけないということです(※3)」とアマゾンのスーパーバイザーは初日に私たちに語った。食堂にはいつも大量の咳止めドロップが置いてあったが、その理由は働きはじめてすぐにわかった。

※3 スーパーバイザーの発言(2016年3月23日)