その日暮らしの労働者にとっては死活問題
より専門的な仕事に就いたとき、給料の支払いは週払いから月払いへと変わる。企業としても、そのほうが安上がりになる。当然ながら、給与計算を年に52回行なえば、12回行なうよりも費用と時間がかかる。一方、その日暮らしの生活を送る人々はすぐにお金を必要としており、最初の小切手を受け取るまでに1カ月も待っている余裕などない。
労働市場の底辺にいる者たちにとって、貯金に頼るという考えは別世界の話でしかない。中流階級の人たちにとって、超高金利のサラ金から金を借りるのが別世界の話であるのと同じだ。そのため、トランスラインのような派遣会社は週ごとに労働者に給料を支払う。あるいは、少なくともそういうルールになっている。
「そのせいで、家賃を支払うためにお母さんから何度もお金を借りる羽目になりました。もし実家を出て部屋を借りていたら、まちがいなく完全にアウトだったでしょうね。18ポンドしか支払われなかったときは、そのすぐあとに40ポンドの口座引き落としがありました。ほんとうは260ポンドなのに、140ポンドしか支払われなかったこともあった。その週には80ポンドの支払いと40ポンドの口座引き落としがあって、残り20ポンドで生活しなくちゃいけなかった。
わたしには運よく別の仕事があって、その週の日曜日に100ポンドが入ってくる予定でした。でも、アマゾンとトランスラインがそんなことを知るはずもありません。わたしは会社に言ったんです。『残りのお金はいつもらえるんですか?』。そうしたら、『来週支払う』と向こうは答えました。当日振込ができないからだ、とかなんとか言って」
アマゾン社員の気まぐれでペナルティが付いてしまう
派遣会社を通してアマゾンの労働者に認められた権利は限定的なものだったが、これらの不充分な権利でさえたびたび無視された。アマゾンの社員たちは恐ろしいほど気まぐれだった。とくに、ポイント制の懲罰制度に関しては気まぐれ度が増した。この制度では、病欠、遅刻、ピッキングのノルマ未達成を理由に従業員に懲罰ポイントが与えられた。
「6ポイントになると、リリース(解雇)です。友だちのひとりは、4ポイントまで溜まったことがありました。はじめは、規定よりも早く退勤したという理由でポイントが与えられましたが、彼女は実際にはそんなことはしていませんでした。
次は、アマゾンのバスが故障して遅れたのに、それでまた1点。病院にいる子どものために早退したら、また1点。働きはじめたばかりのころにわたしも、出勤中に車の事故に遭ったことがありました。だけど、なんとか遅刻せずに会社に着いたんです。でもすぐに帰宅させられ、懲罰ポイントが与えられてしまった。意味不明ですよ。『わたしは不慮の事故に巻き込まれたわけだし、帰れと言ったのもあなた方です。なんでわたしがポイントを与えられなきゃいけないの?』って感じです」