アマゾンが運行するバスが遅延しても「1ポイント」
クレアはアマゾンにこれ以上長く勤めようとは考えていなかった。すでに懲罰ポイントが5点分溜まっており、あと1点で“リリース”だった。はじめの1点は交通事故に対するものだった。次に、ノルマに達していないという理由で点が与えられた(「梱包の仕事でそんなことはありえません」と彼女は訴えた)。
アマゾンが運行するバスが遅れたとき、さらに点が追加された。会社が残業を強制しようとしたとき、また1点(「これは強制的なものだと言われましたが、『もう5週間も強制残業をしているので、これ以上は絶対にできません』と言って断わったんです」)。
そして片頭痛で休んだときに、5点目が追加された(「わたしはひどい片頭痛持ちで、『診断書を提出しましょうか?』と会社に訊いたんです。そうしたら、『その必要はない。いずれにしろ懲罰ポイント追加だ』とかなんとか言われてしまって」)。
クレアはさらに、トランスジェンダーの友人についてのあるエピソードを教えてくれた。仕事中、彼はひどい辱めを受けたという。
「わたしにしてみれば、人種差別と同じくらいひどいことです」とクレアは強い口調で言い、労働者階級にまつわる固定観念に早口で異議を唱えた。彼女のその言葉は、労働者階級がさまざまな社会問題に対して絶望的なほど古い考えのままであるという安易な見方を否定するものだった。
トランスジェンダーへの配慮もない
「彼はトランスジェンダーで、ほんとうの名前はエリーズだったんですけど、エリオットって呼んでほしいと会社に頼んだんです。でも、トランスラインはそれをかたくなに拒んだ。向こうはその友だちをエリーゼと呼ぶので、彼はただ無視していました。
わたしは怒り心頭でしたよ。『彼はトランスジェンダーで、男性ホルモンの投与も受けてる。だから正確にいえば、彼は男性なの。それに、エリオットと呼ぼうがエリーゼと呼ぼうが、あなた方にどんな問題がある?』って言ってやりたかった」
「向こうは理由を説明したんですか?」
「彼女は女の子だからって言ってました。『“あれ”が付いてないだろ』って」
「誰がそう言ったんですか?」
「トランスラインのマネージャーです」
誰もが羨むアマゾンのブルーバッジ(正社員の証=編集部注)を手に入れるのは、どこまでも困難なことだった。飛び抜けて優秀であることはもちろん、ちょっとした違反を犯すことさえ許されなかった。
「まったく休みを取ることもできません」とクレアは説明した。「それに、つねに完璧に基準をクリアしなくちゃいけない。すべてに対して、いつも100パーセントの力を出し切らないといけないんです」