給料の不払いがたびたび起きる
かくして、クレアはアマゾンで働きはじめた。ちょうど10月が終わるころで、彼女はクリスマスのためのお金をどうやって工面するかずっと悩んでいた。クレアは母親と一緒に実家に住んでいたものの、家賃は支払わなければならず、毎月の携帯電話代も口座から自動で引き落とされた。
アマゾンで働き出せば、少なくともちょっとしたクリスマスのお祝いはできるのではないかと彼女は踏んでいた。友人たちと飲みにいったり、家族にプレゼントを贈ったりするくらいはできるはずだと。クレアはアマゾンに仕事を探しにいき、求められたことはすべてやった。言われたとおり、求職中は失業保険の申請もしないようにした。にもかかわらず、私がそれ以降に出会うことになるほかの大勢と同じように、彼女の希望はすぐに失望に変わった。
「クリスマスの前後、トランスラインからの振込額が実際よりも少ないことが何度かあったのですが、そのお金を取り戻すのに8週間もかかったんです。たしか、3週間で27時間分の賃金が支払われていなかった。
それでお母さんがACAS[賃金の不払いや不当解雇などの個人的な労働紛争を解決するためのイギリスの公共機関〈助言斡旋仲裁局〉]に何度か連絡して、解決しようとしたんです。ACASに連絡したとアマゾンに言ったら、その次の週に給料が支払われました。でも3カ月も経過すると、また同じことの繰り返しになる」
40時間分の給料が「2時間半分」しか払われない
クレアが最初の未払い金を取り戻すと、すぐにトランスラインの不払いが再び始まった。
「その2週間後、40時間分の給料として18ポンドが支払われました。これって、たった2時間半の分の額ですよ」
つまりその週、クレアの労働に対して時給45ペンスしか支払われなかったことになる。そのときもまた、未払い金を取り戻すのに数週間かかった。
「ほんとうは262ポンド支払われるべきだったんです。トランスラインは『申しわけありませんが、みんなの支払いがごちゃまぜになってしまって』と説明しました。給与明細をもらったときには、『心配しないでください、まちがっているのは明細だけですから』と言われたんですけど。アマゾンで働いて半年のあいだに、7回も同じようなまちがいがありました」
クレアとしては、トランスラインの不払いについて雇用審判所に訴えるという選択肢もあったが、その費用はあまりに高すぎた。2013年7月に雇用審判のための手数料が導入されて以来、雇用主に不満のある従業員は審判所に提訴するために最大で1200ポンドの手数料を支払わなければいけなくなった。結果、手数料が導入される前年に5847件だった申し立て数は、1年後の2014~15年に1740件に減り、前年比で70パーセントのマイナスを記録した(※2)。